- 2028年4月1日施行方針の義務化に先立ち、今のうちに試行実施しておくと担当者の習熟度・受検率・体制整備の課題を早期に把握できる
- 試行実施の準備は「実施者の確保→外部委託先の選定→衛生委員会での審議→実施規程の策定」の順に進める
- 50人未満事業場は地域産業保健センター(地産保)の無料サービスを活用することで、実施者確保と面接指導コストを大幅に削減できる
- 試行実施後は「受検率」「高ストレス者の面接申出割合」「集団分析結果の活用有無」の3点を記録し、次回への改善サイクルを回す
なぜ今、試行実施をすべきなのか
令和7年(2025年)5月14日公布の改正労働安全衛生法により、これまで努力義務だった50人未満事業場のストレスチェックが、2028年4月1日施行の方針で義務化されることが確定的となりました。
義務化まで約2年の準備期間がありますが、試行実施を今すぐ始めることには明確なメリットがあります。
- 担当者の習熟:人事担当者がいない小規模事業場では、担当者が制度を理解して運用できるまでに時間がかかります
- 受検率の把握:実際に実施してみると「従業員の協力が得られるか」「マークシートかWebか」の判断材料が得られます
- 体制の事前整備:衛生委員会がない事業場では設置準備も必要です(10人以上50人未満は努力義務)
- 外部委託先との関係構築:義務化直前は業者が混雑するため、早期に信頼できる委託先を見つけておく価値があります
ステップ1: 実施者の確保
ストレスチェックを実施するには、医師・保健師・歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師のいずれかの「実施者」が必要です(労働安全衛生法第66条の10第1項)。
50人未満の事業場では産業医の選任義務がないため、実施者の確保が最初のハードルになります。以下の選択肢を検討してください。
地域産業保健センター(地産保)の活用
都道府県医師会が厚生労働省の委託を受けて運営する無料サービスです。ストレスチェックの実施者紹介・高ストレス者の面接指導を無料で依頼できます。最寄りの地産保は産業保健総合支援センターのウェブサイトで検索できます。
外部委託サービスの利用
クラウド型ストレスチェックサービス(月額制)の多くは実施者資格を持つ保健師が含まれています。実施者確保と調査実施を一括で委託できるため、担当者の工数を最小化できます。
ステップ2: 外部委託先の選定
厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月公表)」では、50人未満事業場のプライバシー保護の観点から外部機関への委託を推奨しています。社内で結果を管理すると、少人数のため個人特定リスクが高くなるためです。
外部委託先の5つのチェックポイント
- 実施者(医師・保健師等)が含まれているか、または確保できるか
- 高ストレス者の面接指導に対応できるか(費用・担当者の資格)
- 集団分析(10人以上の場合)とレポートの提供が含まれるか
- 個人情報保護の体制(ISO27001・プライバシーマーク取得状況)
- 試行実施後のデータポータビリティ(義務化後に他社へ乗り換える際のデータ取り出し方法)
ステップ3: 衛生委員会での審議(努力義務)
常時10人以上50人未満の事業場では、安全衛生委員会(または衛生委員会)の設置が努力義務です。設置している場合は、ストレスチェックの実施前に以下の事項を審議します。
- 使用する調査票の種類(57項目版・80項目版のいずれか)
- 実施時期・実施期間
- 実施者の氏名・職種
- 個人結果の取扱い(誰が管理するか)
- 集団分析の実施有無・集計単位
衛生委員会がない場合は、事業主・従業員代表・担当者間で上記事項を確認し、議事録に残しておくことを推奨します。
ステップ4: 実施規程の策定
ストレスチェックの実施方針を「実施規程」として文書化します。厚生労働省は規程例を公表していますが、50人未満の小規模版として最低限記載すべき項目は以下の5点です。
実施規程に記載すべき最低限の5項目
- 実施目的(メンタルヘルス不調の未然防止)
- 実施者の氏名・職種
- 実施時期(毎年◯月)と受検対象者の範囲
- 結果の取扱い(誰が管理するか・事業者への提供に同意が必要な旨)
- 不利益取扱いの禁止(結果による解雇・降格・配置転換の禁止)
ステップ5: 従業員への周知と受検
実施前に全従業員へ以下の3点を説明します。
- ストレスチェックの目的(自身のストレス状態の把握・職場改善のため)
- 受検は任意であること(ただし実施者から個人結果を受け取るかどうかは別途同意が必要)
- 個人結果が事業者に知られることはないこと(同意なき場合)
周知方法は書面配布・メール・口頭のいずれでも構いませんが、「受検を強制する」表現は不利益取扱いと見なされる場合があります。「ぜひご参加ください」という形にとどめてください。
ステップ6: 高ストレス者への面接指導
実施後、高ストレス判定を受けた従業員が面接指導を希望した場合、事業者は医師による面接指導を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条の10第3項)。
地産保を活用した面接指導の流れ
50人未満の事業場では、地域産業保健センター(地産保)の医師が無料で面接を担当してくれます。高ストレス者が出た場合の連絡先を事前に確認しておくことが重要です。また、面接指導の申出期限は「実施後おおむね1か月以内」を目安に設定してください。
ステップ7: 結果の記録と次回への改善
試行実施後は3つの数値を記録し、翌年の改善に活かします。
| 指標 | 目標値の目安 | 低かった場合の対策 |
|---|---|---|
| 受検率 | 80%以上 | 周知方法の見直し・実施期間の延長・管理職への協力依頼 |
| 高ストレス者の面接申出率 | 高ストレス者の30〜50% | 「申し出ても不利益はない」という安心感の周知強化 |
| 集団分析の活用 | 衛生委員会等での共有 | 10人未満では開示不可。上位組織単位で集計 |
試行実施でよくある3つの失敗と対策
- 実施期間が短すぎて受検率が低い:最低2週間、可能であれば3〜4週間の実施期間を確保してください。繁忙期・年末年始・大型連休を避けることも重要です
- 高ストレス者の面接対応フローが決まっていない:実施前に地産保の連絡先確認・外部委託先の面接指導対応確認を行ってください
- 結果を受け取った後、何もしないまま終わる:集団分析(10人以上の場合)または個人結果の受取状況の記録だけでも残すことで、翌年の比較基準ができます
費用の目安(50人未満の試行実施)
従業員20〜49人規模の試行実施費用の目安は以下の通りです(実施者を地産保で確保する場合)。
- 外部委託ツール(クラウド型・年間):実施者込みで年間2〜5万円程度(1人あたり500〜1,500円)
- 集団分析レポート作成:委託費用に含まれる場合が多い
- 面接指導:地産保を活用すれば無料
- 労基署報告書作成代行(任意):1〜3万円程度
50人未満の試行実施では報告義務はありませんが(2028年義務化後の方針確認が必要)、記録として実施証跡を残しておくことを推奨します。
まとめ:2026〜2027年に試行、2028年に本番
50人未満事業場のストレスチェック義務化(2028年4月1日施行方針)まであと約2年。今年・来年の試行実施で「受検率の壁」「実施者確保」「面接指導フロー」の3つの課題を早期に解消しておくことで、義務化当日からスムーズに本番運用を開始できます。厚労省の小規模事業場マニュアル(令和8年2月公表)とあわせて、本記事のステップを参考に準備を進めてください。
この記事をシェア
ストレスチェックの導入費用を試算する
自社の従業員規模に合わせたストレスチェック導入費用・外部委託費用をシミュレーションできます。