この記事のポイント
- ストレスチェックの採点基準は現時点(2025年)では変更されていない。ただし、厚労省委託研究で2010年以来15年ぶりの大規模な標準値見直しが提案された
- 研究は57項目版1,215万人・80項目版164万人分の個票データをもとに属性別標準値を整備。テレワーク従事者向け標準値は今回初めて算出
- 50人未満義務化(2028年4月施行予定)に合わせてマニュアル・指針が改訂される可能性は高い。ただし「研究提案=即変更」ではなく、通達プロセスを経る
- 人事・労務担当者の今すぐの備えは①採点ロジックの外部設定化確認、②80項目版対応状況の把握、③厚労省一次情報のウォッチの3点
この記事でわかること
「うちが使っているストレスチェックシステムの採点ロジック、将来変わったら対応できるのか」——そんな疑問を持つ人事・労務担当者が増えています。
結論から言えば、採点基準そのものの変更は現時点でまだ法制化・通達化されていません。ただし、変更に向けた科学的根拠は2024〜2025年に揃い始めており、50人未満企業のストレスチェック義務化(2028年4月施行予定)と合わせて、2026〜2027年にかけてマニュアル改訂が出る可能性は十分あります。
この記事では、最新の研究動向・制度改正の背景・実務上の備えポイントを落ち着いたトーンで整理します。
現行の採点基準はどうなっているか
職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)とは
ストレスチェックで使われる質問票は、厚生労働省が推奨する職業性ストレス簡易調査票(BJSQ:Brief Job Stress Questionnaire)が標準です。仕事の量・コントロール感・上司や同僚のサポート・身体的な疲労感・満足感など、仕事上のストレス要因を多角的に測る設問群で構成されています。
現行のメインは57項目版です。2015年のストレスチェック義務化(従業員50人以上)に合わせて普及し、現在ほぼすべての企業・外部委託サービスがこの版をベースにしています。加えて、より詳細な職場環境分析を目的とした80項目版も存在します。
高ストレス者の判定基準
高ストレス者をどう判定するかは、厚労省の「ストレスチェック実施マニュアル」と「高ストレス者を選定する方法」(厚労省PDF)に基づきます。目安は受検者全体の約10%程度を高ストレス者として抽出する水準です。
ただし、この目安はあくまで目安。具体的な判定基準は、衛生委員会での調査審議と実施者(医師・保健師等)の意見を経て、各事業場が自社の方針として決定する建付けになっています。つまり、同じスコアでも会社によって高ストレス者と判定される範囲が異なりえます。
最大の動き:標準値見直し研究の公表(2024〜2025年)
厚労省委託の大規模研究とは
2024年3月、厚労省の労災疾病臨床研究事業費補助金を受けた研究(研究代表:堤明純・北里大学医学部公衆衛生学教授)が、令和5〜6年度の研究報告書として「職業性ストレス簡易調査票に関する新しい基準値の提案」を公表しました(北里大学医学部公衆衛生学教室および厚労省ウェブサイトにて確認可能)。
この研究の特徴は、これまでにない大規模なデータを使っている点です。
- 57項目版:2015〜2023年度の実施分で約1,215万人分の個票データを解析
- 80項目版:同期間で約164万人分の個票データを解析
- 前回の標準値見直し(2010年)から15年ぶりの大規模更新
性別・年代・業種・職種・職階・雇用形態・労働時間・テレワーク有無という8つの属性ごとに、偏差値相当の得点と回答分布が算出されています。特にテレワーク従事者向け標準値は今回初めて整備されたもので、コロナ禍以降の働き方の変化を踏まえた新しい指標です。
判定の考え方にも踏み込んでいる
報告書が注目されるのは、標準値の数字だけでなく判定の考え方そのものにも踏み込んでいるからです。
- 機械学習の手法を使った判定と、現行の判定基準を比較検証
- 現行基準では使われていない「仕事の満足感」が、うつ傾向の判定において重要な情報になりうることを示唆
- 特定の下位尺度(質問のグループ)を組み合わせることで、現行より高精度にうつ傾向を判定できる可能性
ここから見えてくるのは、将来的な見直しが「数値の書き換え」にとどまらず、「何をどう組み合わせて判定するか」という判定ロジックの再設計にまで及ぶ可能性があるという点です。
制度改正のタイミングと重なっている
50人未満義務化と実施マニュアル改訂の関係
2025年5月14日、改正労働安全衛生法が公布されました。これにより、これまで努力義務だった50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます。施行日は「公布日から3年以内に政令で定める日」とされており、2026年5月18日の労働政策審議会・安全衛生分科会において2028年4月1日とする方針が示されました。
なぜこのタイミングが重要かというと、義務化対象の拡大に合わせて、厚労省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」が実施マニュアルや指針の改訂を検討しているからです。堤研究班の報告書は、この検討会へのインプットとなるタイミングで出されています。
見直しが起きるとしたらいつごろか
制度改正の流れを踏まえると、現実的なスケジュール感は以下のように整理できます。
| 時期 | 想定される動き |
|---|---|
| 2026〜2027年 | 検討会で標準値・マニュアル改訂を審議。議事録・配布資料で研究内容が引用される動きが出始める可能性 |
| 2027〜2028年 | 義務化施行(2028年4月)に向けてマニュアル改訂版が公表される可能性。厚労省版ストレスチェック実施プログラムのバージョンアップ |
| 2028年4月 | 50人未満義務化施行。第1回目の実施期限は2029年3月31日 |
ただし、これはあくまで可能性の整理です。「いつ変わる」と断言できる情報は現時点で存在しません。
現行基準が「すぐ置き換わらない」理由
あわてる必要がない理由もきちんと押さえておきましょう。
- 建付けの問題:高ストレス者の判定基準は事業場ごとに衛生委員会・実施者の意見を経て決定するもの。厚労省が数値を変えても、各社がそれを運用に取り込むまでにはタイムラグがある
- 通達プロセスが必要:研究提案→検討会審議→通達またはマニュアル改訂→周知という段階を経る。研究が出た翌月から変わるものではない
- 現行の方向性は維持:高ストレス者割合の目安(約10%)は、厚労省委託研究をベースにマニュアル・指針に組み込まれており、業界各社も「原則として現行厚労省基準を維持しつつ、最新研究の知見を反映する」スタンスが主流
人事・労務担当者が今から確認すべき3つのポイント
1. 採点ロジックが外部設定になっているか確認する
委託しているストレスチェックサービスや自社システムで、採点の閾値・素点換算の係数が外部設定(設定ファイルやデータベース)で管理されているか確認してください。ハードコードされていると、マニュアル改訂があるたびにシステム改修が必要になります。
確認のポイント:「仕事のストレス判定図の係数はどこで管理していますか?」「標準値が変わった場合、どのような対応になりますか?」をサービス提供会社に問い合わせると、対応力が見えてきます。
2. 80項目版への対応状況を把握する
現在の主流は57項目版ですが、今回の研究では80項目版(新BJSQ)についても集団分析用の判定基準が新たに整備されました。より詳細な職場環境分析を求める方向に制度が動く可能性があります。委託先が80項目版に対応しているか、対応予定があるかを確認しておくと安心です。
3. 変化のシグナルを追い続ける
採点基準の変更が決まるタイミングでいちばん早く情報が出るのは、以下の一次情報源です。
- 厚労省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」の議事録・配布資料
- 「ストレスチェック制度実施マニュアル」の改訂版公表
- 「高ストレス者を選定する方法」(厚労省PDF)の更新
- 厚労省版ストレスチェック実施プログラムのバージョンアップ内容
- 50人未満義務化の施行日確定(2028年4月1日予定)にあわせた周知文書
これらをブックマークして定期的に確認する習慣をつけておくと、変化があったときにすぐ動けます。
システム開発・カスタマイズを検討している企業へ
自社でストレスチェックシステムをスクラッチ開発・カスタマイズしている企業や、今後の義務化に向けてシステム整備を検討している企業は、以下の点を設計段階で考慮することをお勧めします。
| 設計上の観点 | 対応の考え方 |
|---|---|
| 採点ロジック | 閾値・素点換算表・係数をコードに直書きせず、設定値として外部管理する |
| 調査票バージョン | 57項目版と80項目版の両対応を視野に入れる |
| 集団分析機能 | 属性別(性別・年代・業種・テレワーク有無等)の比較表示に対応できる構造にする |
| 判定図の係数 | 仕事のストレス判定図の係数もハードコードしない。将来の係数変更に対応できるよう設定化する |
制度の変化に追従しやすいシステム設計は、開発コストを長期的に下げることにもつながります。
まとめ
ストレスチェックの採点基準・標準値は、現時点では変わっていません。しかし、変更に向けた大規模な科学的根拠が2024〜2025年に揃い、50人未満義務化(2028年4月施行予定)という制度改正のタイミングと重なっています。
人事・労務担当者として今すぐ取るべき行動は「あわてる」ことではなく、以下の3点です。
- 委託先・自社システムの採点ロジックが変更に対応できる構造になっているか確認する
- 80項目版への対応状況を把握しておく
- 厚労省の検討会議事録とマニュアル改訂情報を定期的にウォッチする
「採点基準が変わったら大変」という不安を持つより、「変化があっても即対応できる体制」を整えておくことが、賢い備え方です。
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