この記事のポイント
- ストレスチェック結果を上司・人事が見ることは、本人の同意なしには原則禁止(安衛法第66条の10第2項)
- 集団分析(受検者10人以上)は同意不要で会社が活用可能
- 実施事務従事者の守秘義務違反には6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(安衛法第119条)
- 個人情報保護法上、健康情報は要配慮個人情報として厳格な取り扱いが必要
ストレスチェック結果の閲覧に関する基本ルール
ストレスチェック制度において、労働者個人の結果を事業者(会社)が閲覧することは、原則として禁止されています。
これは労働安全衛生法第66条の10第2項に基づくもので、ストレスチェックの結果は実施者(医師・保健師等)から直接、本人に通知することが義務付けられています。上司や人事担当者が「業務上必要」という理由で結果を閲覧することは法律違反になります。
ストレスチェック制度が2015年12月に義務化されて以来、多くの企業で「人事が全員の結果を管理している」「上司が部下の結果を確認している」というケースが見られます。しかしこれらは法律違反であり、発覚した場合には会社として重大なリスクを抱えることになります。
会社(事業者)が見られる情報・見られない情報
見てはいけない情報(本人の同意なし)
- ストレスチェックの個人別結果(得点・判定)
- 高ストレス者かどうかの判定
- ストレスチェック回答内容
- 面接指導の結果・産業医の所見
会社が取り扱える情報の整理
| 情報の種類 | 取り扱い条件 |
|---|---|
| 個人結果(判定含む) | 本人の書面または電磁的方法による同意が必要 |
| 面接指導の結果記録 | 本人申出後、産業医の意見として事業者に提供される |
| 集団分析の結果 | 受検者が10人以上の集団であれば同意不要(個人が特定できない形式) |
| 実施状況(受検率) | 同意不要(個人の結果ではないため) |
「同意があれば」会社は結果を見られるか
本人が書面または電磁的方法で同意した場合に限り、事業者は個人の結果を取得できます(安衛法第66条の10第3項)。ただし、同意取得には以下の制約があります:
- 実施前・実施中の同意取得は禁止:ストレスチェック実施前や回答中に同意を求めることは、事実上の強制とみなされるため禁止です
- 結果通知後に個別に取得すること:本人が結果を受け取った後、改めて個別に同意を取得する必要があります。入社時の包括的同意は無効とされます
- 同意しないことで不利益を与えることは禁止(安衛法第66条の10第9項):同意を拒否した従業員に対して評価を下げたり、特別な対応を求めたりすることはできません
なお、同意を得て個人結果を取得した場合でも、その利用は同意した目的の範囲内に限定されます(個人情報保護法第18条)。「高ストレス者の確認」のために取得した結果を、人事評価や配置転換の判断に使用することは目的外利用となり、禁止されます。
上司・管理職が結果を見ることは禁止か
上司は法律上「事業者」または「事業者の代理人」として扱われるため、本人の同意なしに個人の結果を見ることは原則禁止です。
ただし、以下の場合は上司が関与することがあります:
- 面接指導後の就業上の措置:産業医の意見書を受けて、事業者として業務上の配慮(時間外労働の制限・配置変更等)をする場合に、直属の上司が情報を必要とすることがあります。この場合も共有は最小限にとどめることが原則です
- 集団分析の結果フィードバック:部署別の集団結果(受検者10人以上)は、管理職に共有可能です(個人が特定できない形式に限る)。厚生労働省のマニュアルでは、集団分析結果の共有範囲をあらかじめ衛生委員会で審議・決定しておくことを推奨しています
違反した場合のリスク
法的リスク
- 個人情報保護法違反:健康情報は要配慮個人情報であり、不正取得は個人情報保護委員会による指導・命令・公表の対象となります
- 労働安全衛生法違反:ストレスチェック制度上の義務違反は、安衛法の罰則規定が適用される可能性があります(詳細は所轄の労働基準監督署に確認ください)
- 安全配慮義務違反:取得した情報を不適切に使用した場合、民事損害賠償のリスクがあります。特に健康情報の漏えいや目的外利用により従業員に損害が生じた場合、企業が損害賠償責任を負う可能性があります
組織的リスク
- 従業員の不信感による受検率の大幅低下
- 労働基準監督署による是正勧告・改善報告書の提出義務
- 高ストレス者が面接指導を申し出なくなる(メンタルヘルスリスクの顕在化が遅れる)
- SNSやロコミによる企業イメージの悪化
人事担当者が知るべき社内の閲覧制御の設計方法
ストレスチェックをシステムで実施している場合、以下のアクセス制御を設計します:
- 実施者のみが個人結果にアクセスできる権限設計:人事・上司アカウントには個人結果ページへのアクセス権限を付与しない。システムレベルでアクセスをブロックすることが最も確実です
- 集団分析結果と個人結果を画面上で分離:管理職向けには集団分析ダッシュボードのみを公開し、個人一覧ページへの導線を設けない
- 同意取得フローの自動化:本人の同意状況を記録し、同意なしのデータへのアクセスをシステムでブロックする。同意状況の管理台帳を整備する
- アクセスログの保存:誰がいつ何のデータを閲覧したかを記録し、5年間保存することを推奨します。内部監査や外部指導に備えたエビデンスとなります
実施事務従事者の守秘義務
ストレスチェックの実施事務に携わる担当者(実施事務従事者)には、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない守秘義務があります(安衛法第104条)。この義務に違反した場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(安衛法第119条)が科される可能性があります。
実施事務従事者には、個人結果を上司や同僚に教えることも含めて禁止されています。社内で実施事務従事者を選任する際には:
- 守秘義務の内容と罰則について文書で説明すること
- 守秘義務誓約書を取得すること
- 担当が変わる場合の引き継ぎ方法を事前に決めておくこと
外部委託業者の担当者も同様に守秘義務を負います。委託契約書に守秘義務条項を必ず盛り込んでください。
まとめ
ストレスチェック結果の閲覧ルールを整理すると:
- 個人の結果は「本人の同意なし」では会社は見られない(安衛法第66条の10第2項・第3項)
- 集団分析(受検者10人以上)は同意不要で会社が活用可能
- 面接指導後の産業医意見書は事業者として受け取れる(個人結果ではなく措置に関する意見)
- 実施事務従事者は守秘義務(安衛法第104条)を負い、違反は罰則の対象(安衛法第119条)
- 違反した場合は個人情報保護法・安衛法の両方でリスクがある
制度の信頼性を保つためには、人事・上司・実施事務従事者への定期的な教育と、システム上のアクセス制御設計の両方が不可欠です。
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