- 自社開発と外部委託の損益分岐点は従業員3,000人前後であること
- 規模別(300人/1,000人/3,000人/5,000人)の5年累計コスト試算
- 自社開発を選ぶべき3つの条件(規模・データ統合・独自分析軸)
- 自社開発で負う法改正対応の責任と、実施者6職種の確保義務
- 外注から自社開発へ切り替える実務5ステップ
結論:ストレスチェックの自社開発が経済的に見合うのは従業員3,000人以上から
ストレスチェックを自社システムで内製すべきか、外部に委託すべきか。結論から言えば、コストだけで判断するなら損益分岐点は従業員3,000人前後であり、それ未満の規模では外部委託のほうが経済的です。自社開発が正解になるのは、規模の条件に加えて「他システムとのデータ統合」「独自の分析軸」という非金銭的な要件が揃ったときに限られます。
この記事は、自社開発という選択肢に絞ってその判断基準を解説します。SaaS・産業医・代行業者を含めた委託先全体の比較検討をしたい方は、ストレスチェック委託先の選び方|4類型の比較を先にお読みください。
ストレスチェックの自社開発とは
ストレスチェックの自社開発とは、調査票の配信・受検・集計・高ストレス者判定・集団分析までを行うシステムを、自社で設計し保有する方式である。パッケージやSaaSを契約する外部委託と異なり、仕様の決定権とデータの保管場所を自社が持つ点が本質的な違いです。
なお、システムを自社で持つことと、ストレスチェックの実施者を自社で確保することは別問題です。労働安全衛生規則第52条の10により、実施者は医師・保健師のほか、厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師に限られます(厚生労働省)。システムを内製しても、この6職種のいずれかを確保する必要は変わりません。
自社開発と外注の損益分岐点はどこか?
損益分岐点は従業員3,000人前後です。3,000人規模で5〜7年、5,000人規模で3〜4年かけて自社開発が累計コストで外注を下回ります。1,000人規模以下では、5年総額で見ても外注が明確に有利です。
以下はFUNBREWによる概算モデルです。前提は「外注=400円/人/年」「自社開発=初期500万円+保守75万円/年」とし、5年間の累計で比較しています。実際の費用は要件・受検方法・オプションにより変動するため、目安としてご覧ください。
| 従業員規模 | 外注(5年累計) | 自社開発(5年累計) | 判定 |
|---|---|---|---|
| 300人 | 約60万円 | 約875万円 | 外注が有利 |
| 1,000人 | 約200万円 | 約875万円 | 外注が有利 |
| 3,000人 | 約600万円 | 約875万円 | 5〜7年で自社開発が逆転 |
| 5,000人 | 約1,000万円 | 約875万円 | 3〜4年で自社開発が優位 |
外注側の単価やオプション費用の内訳、見積書に現れない隠れコストについては、ストレスチェック外部委託の費用相場で詳しく解説しています。
自社開発を選ぶべき3つの条件
コストで逆転するだけでは、自社開発に踏み切る理由として不十分です。次の3条件のうち2つ以上が当てはまる場合に、はじめて自社開発が合理的な選択肢になります。
条件1:従業員3,000人以上で、5年以上の運用を前提にできる
前掲の試算のとおり、3,000人未満では投資回収が見込めません。加えて、開発したシステムを5年以上使い続ける前提が必要です。3年で組織再編や人事システム刷新が予定されている場合、回収前に作り直しになります。
条件2:既存の人事・健康管理システムとのデータ統合が業務上必須である
健康診断結果・勤怠・休職履歴とストレスチェック結果を突き合わせて分析したい場合、外注SaaSのCSV連携では運用が破綻しやすくなります。データ基盤を自社に置く必要があるなら、自社開発の価値が金額以外の面で生まれます。
条件3:法定57項目に加えて独自の設問・分析軸を持ちたい
職業性ストレス簡易調査票(57項目)は国が示す標準版ですが、エンゲージメント調査や独自の組織サーベイと同一基盤で分析したい場合、外注サービスの設問カスタマイズ範囲では足りないことがあります。ただし、法定項目の改変は認められないため、独自設問は追加として設計する必要があります。
自社開発のデメリットは何か?
最大のデメリットは、法改正への対応責任を自社が負うことです。外注サービスでは法改正時にベンダーが仕様を更新しますが、自社開発では改正内容の読み込み・仕様変更・テストをすべて自社で計画する必要があります。
- 法改正対応の内製化:施行日までに自社で改修を完了させる責任を負う。一方で、対応内容と時期をコントロールでき、施行前に十分な検証期間を確保できる利点もある
- 保守・セキュリティの継続負担:健康情報という要配慮個人情報を扱うため、脆弱性対応とアクセス権限管理を継続的に運用する体制が要る
- 実施者・実施事務従事者の確保:システムを内製しても、医師・保健師等の実施者を別途確保する必要がある
- 初期構築期間:要件定義から本稼働まで、一般に6〜12か月を見込む
なお、常時50人以上の労働者を使用する事業場には労働安全衛生法第66条の10により実施義務があります(厚生労働省)。50人未満の事業場への義務化は2025年5月に公布された改正法で定められ、施行日は公布後3年以内に政令で定めるとされています。現時点では2028年4月1日とする方針が示されていますが、確定は政令によります。施行スケジュールの詳細は50人未満の義務化はいつから?施行スケジュールをご確認ください。
外注から自社開発へ切り替える5つの実務ステップ
すでに外注で運用している企業が自社開発へ移行する場合、実施年度をまたぐ移行計画が必要です。ストレスチェックは年1回の実施義務があるため、切り替え時期を誤ると未実施のリスクが生じます。
- 過去データの移行方針を決める:個人結果は本人同意なく事業者が取得できません。移行対象を集団分析結果に限るか、本人同意を取り直すかを先に決めます
- 実施スケジュールと重ねない:実施月の直前直後を避け、実施完了後から次年度実施の3か月前までを移行期間に充てます
- 産業医・外部機関との連携を確認する:面接指導の申出フローや結果通知の様式が変わる場合、産業医との運用合意を取り直します
- 開発パートナーを選定する:健康情報の取り扱い実績と、法改正時の改修体制を評価軸に含めます
- 並行稼働期間を設ける:初年度は旧システムを参照可能な状態で残し、集計値の突合ができるようにします
まとめ
ストレスチェックの自社開発は、従業員3,000人以上・5年以上の運用前提・データ統合または独自分析軸のいずれかという条件が揃ってはじめて合理性を持ちます。1,000人規模以下であれば、外部委託を選ぶほうが経済的にも運用負荷の面でも有利です。
まず委託先の選択肢を整理したい場合は委託先の選び方を、費用の内訳を把握したい場合は外部委託の費用相場をご覧ください。自社開発の要件定義や損益分岐点の 個別の試算については、FUNBREWのお問い合わせよりご相談いただけます。
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