この記事のポイント
- ストレスチェックを実施する時点で休業している労働者は、事業者が実施しなくても差し支えないとされている(施行通達・実施マニュアルの考え方)
- 対象になり得るのは産前産後休業・育児休業・介護休業・私傷病による休職など、業務に従事していない状態にある社員
- 「対象外にできる」のであって「対象外にしなければならない」わけではなく、実施するかどうかは事業場の判断に委ねられている
- 復職時は次回のストレスチェックサイクルへの組み込みタイミングを実施規程であらかじめ決めておくと運用が安定する
結論:休業中の社員はストレスチェックの対象外にできる
結論から言うと、ストレスチェックを実施する時点で休業している労働者については、事業者が当該労働者に対してストレスチェックを実施しなくても差し支えないとされています。これは労働安全衛生法の一部改正に伴う施行通達(平成27年5月1日付基発0501第3号)第1項関係で示されている考え方で、厚生労働省の「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」にも同様の記載があります。
産前産後休業・育児休業・介護休業・私傷病による休職など、理由を問わず「実施時点で就労していない」状態にある社員が対象になり得ます。人事担当者からよく聞かれる「育休中の社員に受検案内を送るべきか」「休職者を対象者リストから外してよいか」という疑問への公式な答えがこれです。
ストレスチェックの対象者の原則をおさらい
ストレスチェックの実施義務は労働安全衛生法第66条の10に基づき、事業者が常時使用する労働者に対して負います。「常時使用する労働者」とは、期間の定めのない労働契約を結んでいる、または1年以上継続して雇用が見込まれる有期契約労働者で、週の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者のおおむね4分の3以上である者を指すのが基本的な考え方です。
この原則に照らすと、育休・休職中の社員も労働契約自体は継続しているため、本来は対象者の範囲に含まれます。ただし「実施時点で休業している」という運用上の理由から、対象外とする取り扱いが認められているのです。
対象外にできる休業の種類
実施マニュアルや施行通達では休業の種類を限定的に列挙しているわけではなく、「実施時点で休業している労働者」という包括的な表現が使われています。実務上、対象外の検討対象になるのは主に次のようなケースです。
| 休業の種類 | 想定される状況 |
|---|---|
| 産前産後休業 | 出産予定日6週間前〜産後8週間の休業期間 |
| 育児休業 | 子が1歳(延長時は最長2歳)に達するまでの休業期間 |
| 介護休業 | 対象家族の介護のための休業期間 |
| 私傷病による休職 | 病気・けが等で就業規則上の休職制度を適用している期間 |
| その他の長期休暇 | 事業場の制度に基づく長期の私用休暇等 |
一方、数日〜1週間程度の年次有給休暇や夏季休暇などの短期の休暇取得者は、通常「休業している労働者」には該当せず、実施期間中に受検してもらうのが一般的です。短期の不在者への対応は、実施期間の設定や個別の受検案内で調整するのが実務的です。
「対象外にできる」であって「対象外にしなければならない」ではない
ここで押さえておきたいのは、施行通達・実施マニュアルの表現が「実施しなくても差し支えない」という任意規定である点です。「実施してはならない」でも「必ず除外しなければならない」でもありません。
そのため、次のような対応もすべて事業場の判断で選択できます。
- 休業中の社員を一律で対象外とする
- 本人の希望があれば、休業中でもオンライン等で受検してもらう
- 休業期間の長さ(例:1か月未満は対象に含める、1か月以上は対象外とする)で線引きする
どの方針を採るにせよ、後から「なぜあの社員だけ実施しなかったのか」といった疑問が出ないよう、取り扱いの基準をストレスチェック実施規程に明文化しておくことが重要です。
実務の目安:休業期間による線引きの考え方
厚生労働省が公開しているストレスチェック制度実施規程の例(実施マニュアル所収)では、「ストレスチェック実施期間に休職していた社員のうち、休職期間が1月以上の社員については、ストレスチェックの対象外とする」という規定例が示されています。
ここで注意したいのは、この「1か月以上」という日数はあくまで実施規程の記載例の一つであり、法令や指針が定めた全国一律の基準ではないという点です。実施マニュアル・施行通達本体は「実施時点で休業している労働者」という表現にとどまり、具体的な日数基準を示していません。自社の実情に合わせて「1か月」「2週間」など任意の基準を実施規程に定め、社内で一貫した運用をすることが求められます。
復職時の対応——次回サイクルへの組み込み方
休業中は対象外としても、復職後は通常どおり「常時使用する労働者」に戻ります。復職のタイミングによって、次のように対応が分かれます。
実施期間中に復職した場合
ストレスチェックの実施期間(多くの事業場では特定の1〜2週間を設定)の途中で復職した場合は、可能であれば同じ実施期間内に受検してもらうのが望ましい対応です。難しい場合は、出張者等と同様に別途期間を設定して個別に実施する運用も認められます。
実施期間外に復職した場合
実施期間が終了した後に復職した場合は、次回の定期実施(安衛則第52条の9に基づき1年以内ごとに1回)まで待つ運用が一般的です。ただし、休業前に高ストレス状態が続いていた社員や、休職理由がメンタルヘルス不調に関わる場合は、産業医面談を組み合わせた個別フォローを優先し、次回の定期実施を待たずに状況確認を行うほうが安全配慮義務の観点からも望ましいといえます。
メンタルヘルス不調による休職からの復職支援については、産業医・保健師と連携した段階的な職場復帰プログラムの活用も検討してください。
実務上の注意点
対象者リストからの除外方法
人事システムやストレスチェックシステム側で、休職・休業中の社員を対象者リストから正しく除外する設定が必要です。除外漏れがあると、休業中の社員に受検勧奨メールが届いてしまい、本人や家族に不要な負担をかけることになります。
受検勧奨メールの誤送信防止
特に育児休業は取得期間が長期にわたるため、システムの対象者マスタが更新されないまま前年度の設定を引き継いでしまうケースが見られます。実施期間の設定時には、直近の休業者・復職者の情報を人事部門で必ず確認し、対象者リストに反映してください。
集団分析への影響
休業中の社員を対象外とした場合、その部署の集団分析における母数(回答者数)が変わります。10人未満の集団では個人が特定されるおそれがあるため結果を提供しないという原則があるため、休業者の除外によって当該部署の回答者数が10人を下回らないか、あわせて確認しておくと安心です。
まとめ
育児休業・産前産後休業・介護休業・私傷病休職中の社員は、実施時点で休業していればストレスチェックの対象外にできます。ただしこれは任意の取り扱いであり、休業期間の線引きや復職時の対応方法は事業場ごとに実施規程で明確にしておくことが実務上のポイントです。判断に迷う場合は、衛生委員会で審議のうえ基準を明文化し、産業医・保健師とも情報共有しておきましょう。
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