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労務管理

ストレスチェックにおける不利益取扱い禁止ガイド|会社がやってはいけない行為と労働者の権利

2026年6月5日 約5分で読めます

ストレスチェックの不利益取扱い禁止とは

ストレスチェック制度は、労働者が安心して受検・面接指導を申し出られる環境の整備を前提として成り立っています。そのため、労働安全衛生法第66条の10第3項および「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(ストレスチェック指針)の第10は、事業者によるさまざまな不利益取扱いを明示的に禁止しています。

制度の目的は「労働者自身のストレス気づきと職場環境改善」であり、受検結果が人事評価に影響するという不安が生じると、受検率の低下や正直な回答の妨げにつながります。

「不利益取扱いをしなければよい」だけでなく、「不利益取扱いをしないことを社内ルールに明文化し、全従業員に周知する」ことが実務上の要点です。衛生委員会での審議・実施規程への明記が実効性を高めます。

法的根拠

不利益取扱い禁止の法的根拠は、主に次の2層に分かれます。

  • 労働安全衛生法第66条の10第3項:事業者は、労働者が医師による面接指導の申出をしたことを理由として、当該労働者に対し不利益な取扱いをしてはならない
  • ストレスチェック指針 第10:事業者は、ストレスチェック・面接指導で把握した健康情報に基づき、健康確保に必要な範囲を超えて不利益な取扱いを行ってはならない。受検しないこと・結果提供に同意しないこと・面接申出を行わないことを理由とした不利益取扱いも禁止

禁止される具体的な不利益取扱いの例

ストレスチェック受検に関する不利益取扱い

不利益取扱いの例NG理由
受検を拒否した労働者を解雇する受検拒否を理由とした解雇は指針第10で禁止
受検しない労働者に罰則・罰金を科すストレスチェックの受検は法的義務ではなく任意
受検しない労働者を不当な配置転換や降格にする受検しないことを理由とした人事上の不利益は禁止
受検未了を理由に賃金・賞与を減額する金銭的な不利益付与も不利益取扱いに該当

結果の事業者提供同意に関する不利益取扱い

不利益取扱いの例NG理由
結果の提供に同意しない労働者を評価で不利に扱う同意拒否を理由とした不利益は指針第10で禁止
同意しない理由を執拗に問いただす同意は任意であり、強制につながる働きかけは禁止
同意しない労働者に圧力をかけて同意させる同意は自由意思に基づくものでなければならない

面接指導の申出に関する不利益取扱い

不利益取扱いの例NG理由
面接指導を申し出た労働者を退職勧奨する法第66条の10第3項の直接的な禁止事項
面接指導を申し出た労働者を本人の意に反して異動させる医師の意見と著しく異なる配置転換は不利益取扱い
面接指導を申し出たことを上司に告知する健康情報の目的外利用・守秘義務違反に該当
面接指導の申出者の氏名を人事部門と共有��る申出の事実は健康情報。人事権者への情報漏洩は禁止

「就業上の措置」と「不利益取扱い」の境界線

面接指導の後に医師から就業上の措置(時間外労働の制限・配置転換など)の意見が出た場合、事業者はその意見を「考慮」して措置を講じることができます。これは不利益取扱いではありません。

境界線のポイントは以下の3点です。

  • 医師の意見に基づく措置か否か:医師の意見を踏まえた合理的な措置は不利益取扱いではない
  • 労働者本人の意向を無視していないか:本人が希望する配置転換は可。一方的な不当配転は禁止
  • 著しく医師の意見と異なる内容でないか:過度な措置は不当となる場合がある

なお、就業上の措置はストレスチェック結果「のみ」で判断してはならず、必ず面接指導を実施した上で医師の意見を得てから決定する手順が求められます。

人事担当者を実施事務従事者にしてはいけない理由

ストレスチェック制度では、「人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者(人事権者)」は実施事務従事者になることができません(ストレスチェック指針 第4の2)。

理由は明確で、人事権者がストレスチェック結果や面接申出の情報にアクセスできると、その情報を人事評価・配置転換・昇降格などに(意図せず)利用してしまうリスクがあるからです。

実務上のポイントとして、次の点に注意してください。

  • 総務・人事が同一部署の場合、ストレスチェック担当者を明確に分離する
  • 担当者が人事権者でないことを社内規程に明記する
  • 面接指導の申出書・面接記録は人事部門が閲覧できないよう管理する

企業が整備すべき不利益取扱い防止策

1. 衛生委員会での審議と規程への明記

ストレスチェックの実施前に、衛生委員会(または安全衛生委員会)で次の内容を審議し、議事録に残した上で実施規程に盛り込みます。

  • 不利益取扱いを行わない旨の明文化
  • 実施事務従事者に人事権者を含まない旨の確認
  • 健康情報の利用目的と管理方法の明示

2. 全従業員への周知

受検前に以下の内容を全従業員に周知します。

  • 受検は任意であること
  • 結果の事業者への提供は本人の同意が必要なこと
  • 受検・結果同意・面接申出の如何を理由とした不利益取扱いを行わないこと
  • 面接指導の申出を行った事実は秘密が守られること

3. 情報管理ルールの整備

ストレスチェック結果・面接申出情報・面接記録は個人情報として適切に管理し、アクセス権限を限定します。クラウド型ストレスチェックシステムを利用する場合は、管理者権限の設定で人事権者が個人結果を閲覧できないよう制御することが重要です。

違反した場合のリスク

不利益取扱いを行った場合、以下のリスクが生じます。

  • 行政指導:労働基準監督署による是正勧告・改善指示
  • 民事責任:不当解雇・不当配転として損害賠償請求を受ける可能性
  • 安全配慮義務違反:メンタルヘルス不調者への対応義務を怠ったとして訴訟リスク
  • 企業イメージの低下:採用・取引への影響

50人未満事業場での留意点(2028年義務化に向���て)

2025年5月公布の改正労働安全衛生法により、2028年4月1日の施行(方針)をもって50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される見込みです。義務化後は、不利益取扱い禁止の規定も同様に適用されます。

現時点で努力義務として実施している50人未満の事業場も、今から実施規程に不利益取扱い禁止の文言を盛り込み、人事担当と実施事務担当を分離する体制を整えておくことを推奨します。

この記事のまとめ

  • ストレスチェックの不利益取扱い禁止は、労働安全衛生法第66条の10第3項とストレスチェック指針第10が根拠
  • 受検しないこと・結果同意拒否・面接指導申出を理由とした解雇・降格・配置転換はすべて禁止
  • 「就業上の措置」として医師の意見に基づく合理的な配置転換は不利益取扱いに当たらない
  • 人事権を持つ担当者は実施事務従事者になれない(指針第4の2)
  • 防止策は①衛生委員会での審議・規程明記、②全従業員への周知、③情報管理ルール整備の3点が核心
よくある質問
ストレスチェックを受けないことは法律違反になりますか?
いいえ、労働者にはストレスチェックの受検義務はありません。受検は任意です。ただし、事業者(会社)には労働者数50人以上の事業場において年1回の実施義務があります。受検しないことを理由に会社が労働者を不利に扱うことは、ストレスチェック指針第10で禁止されています。
ストレスチェックの結果を事業者に提供しなかった場合、何かペナルティがありますか?
ありません。結果の事業者への提供は労働者本人の同意が前提です。同意しないことを理由として、解雇・配置転換・降格・賃金引き下げなどの不利益な取扱いを行うことは、ストレスチェック指針第10で禁止されています。会社は労働者が同意しない場合でも、個人結果を取得することはできません。
面接指導を申し出ると、上司に知られてしまいますか?
面接指導の申出の事実は守秘義務の対象であり、上司や人事権者に知らせてはいけません。実施者・実施事務従事者には守秘義務が課されています。面接申出書の管理・面接記録の保管は、人事部門がアクセスできない体制にする必要があります。
面接指導後に配置転換を命じることは不利益取扱いになりますか?
医師の意見に基づいた合理的な就業上の措置として行われる配置転換は、不利益取扱いには当たりません。一方、①医師の意見と著しく異なる配転、②本人の意向を一切無視した一方的な配転、③面接申出の事実を「処罰」するような意図で行われる配転は不利益取扱いとみなされる可能性があります。措置の合理的根拠を文書で残すことが重要です。
人事担当者をストレスチェックの実施事務従事者にすることはできますか?
「人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者(人事権者)」は実施事務従事者になることができません(ストレスチェック指針第4の2)。人事担当者が人事権を持っている場合は対象外となります。総務担当者や外部委託業者のスタッフなど、人事権を持たない担当者を実施事務従事者に選任する必要があります。
不利益取扱いを受けた場合、労働者はどのような対応ができますか?
労働基準監督署への申告・相談が有効です。また、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」への相談、弁護士・社会保険労務士への相談も選択肢です。不利益取扱いの証拠(面接申出書の写し・配転辞令の日付・上司とのメールなど)を保存しておくことが大切です。
50人未満の会社でもストレスチェックの不利益取扱い禁止は適用されますか?
2025年5月公布の改正労働安全衛生法により、2028年4月1日の施行(方針)をもって50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される見込みです。義務化後は不利益取扱い禁止規定も同様に適用される予定です。現在、努力義務として実施している場合も、安全配慮義務の観点から不利益取扱い禁止の理念を守ることが重要です。

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