- ストレスチェック後の「就業上の措置」は労働安全衛生法第66条の10第5項・第6項に基づく事業者の義務
- 面接指導後、遅滞なく医師の意見を聴取し、書面で記録に残すことが重要
- 就業上の措置決定時は、不利益取扱いとならないよう本人の意向を必ず確認する
- 衛生委員会への匿名化した報告と、5年間の記録保管が推奨される
「就業上の措置」とは何か
ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者が面接指導(医師による面談)を申し出た場合、事業者にはその結果を受けて「就業上の措置」を講じる法的義務があります。
根拠法令は労働安全衛生法第66条の10第5項・第6項です。
- 第5項:事業者は面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴かなければならない
- 第6項:医師の意見を勘案し、必要と認めるときは実情を考慮した上で就業上の措置を講じなければならない
つまり、面接指導で終わりではなく、その後の「事業者としての対応」まで一連の義務として定められています。担当者は「高ストレス者が面談を受けたら完了」と思いがちですが、措置・記録・委員会報告まで含めた一連のフローを把握しておく必要があります。
ステップ1:面接指導後の医師からの意見聴取
面接指導を実施した医師は、事業者に対して就業上の措置に関する意見を述べます。事業者はこの意見を「面接指導実施後、遅滞なく」聴取する必要があります(厚生労働省告示・ストレスチェック指針より)。
医師の意見として求める内容
- 就業上の措置の必要性の有無(措置が必要か不要か)
- 講ずべき措置の内容(労働時間短縮・配置転換など具体的内容)
- 職場環境の改善に関する意見(業務量・人員体制など)
意見聴取の形式と記録の残し方
書面(意見書)の形で受け取ることが実務上の標準です。書面がない場合でも、口頭でのやり取りを記録として残しておく必要があります。多くの事業場では、産業医が作成した所定様式の意見書を受領するか、事業者側で「医師意見確認書」を準備して記入してもらう形をとっています。
意見書に含めるべき項目は以下の通りです。
- 面接指導の実施日
- 面接指導を実施した医師の氏名
- 就業上の措置の要否
- 具体的な措置の内容と期間の目安
- 職場環境改善に関する意見(あれば)
ステップ2:就業上の措置の種類と選択基準
法律が例示する就業上の措置は以下の通りです。医師の意見・本人の意向・業務実態を総合的に考慮して選択します。一つの措置に限らず、複数を組み合わせて実施することも可能です。
| 措置の種類 | 具体例 | 適用の目安 |
|---|---|---|
| 労働時間の短縮 | 残業禁止・所定労働時間内での終業 | 過重労働が主因の場合 |
| 深夜業の回数削減 | 夜勤シフトの免除・削減 | 勤務形態が健康に影響している場合 |
| 就業場所の変更 | 在宅勤務への切り替え・別拠点への異動 | 特定の職場環境がストレス源の場合 |
| 作業の転換 | 担当業務・担当顧客の変更 | 業務内容がストレスの主因の場合 |
| その他の必要な措置 | 産業カウンセラーへの相談紹介など | 上記以外の支援が必要な場合 |
不利益取扱いの禁止(重要)
就業上の措置を決定する際は、必ず事前に本人の意見を聴き、面接指導の申し出を理由とした解雇・降格・減給などの不利益取扱いを行ってはなりません(法66条の10第9項・ストレスチェック指針第10)。
例えば、面接指導を受けたことを理由に「査定を下げた」「昇進候補から外した」といった対応は違反になります。措置を決める際の話し合いは丁寧に行い、記録に残しておくことが訴訟リスクの回避につながります。
ステップ3:衛生委員会への報告
事業者は医師から受けた意見を衛生委員会(または安全衛生委員会)へ報告しなければなりません(法66条の10第6項)。ただし、報告する際には個人が特定されないよう情報を集約・匿名化した形で提示するのが原則です。
衛生委員会への報告内容の例
- 面接指導の実施件数(当該期間)
- 就業上の措置の実施状況(措置の種類・件数)
- 職場環境の改善が必要な事項(医師意見の概要)
衛生委員会の場で、職場環境改善の方向性を議題として取り上げることで、個人情報を保護しながら組織全体のメンタルヘルス対策に反映させることができます。
ステップ4:記録の作成と保管
面接指導の結果と就業上の措置に関する記録は、適切に保管する必要があります。
保管期間の考え方
- 面接指導結果の記録:5年間保存が推奨(健康情報として管理)
- ストレスチェック実施記録(実施年月日・対象者数等):5年間保存が推奨
- 労基署への報告書控え:保管しておくことを推奨
※保管期間については、法令上の明示規定は限定的ですが、厚生労働省は5年間の保存を推奨しています。
記録保管上の注意点
- 面接指導の結果は、労働者の同意なく人事部門に提供することは原則不可
- 結果を保管する際は、アクセス権限を限定し情報管理を徹底する
- 電子保管の場合はアクセスログの記録も合わせて残す
- 退職後も記録を保持し、後日の証拠として活用できるようにする
50人未満の事業場で産業医がいない場合
50人未満の事業場で産業医の選任義務がない場合でも、面接指導を実施できる医師(地域産業保健センター・かかりつけ医など)を確保することが必要です。
産業保健総合支援センター(各都道府県)では、面接指導医師の紹介や就業上の措置に関する相談を無料で受け付けています。2028年4月の義務化方針を前に、今から体制を整えておくことが重要です。
事業者向けチェックリスト
- 面接指導実施後、遅滞なく医師から意見を聴取したか
- 医師意見を書面(意見書)で受け取り、記録として保管したか
- 本人の意向を確認し、不利益取扱いとならないよう配慮したか
- 就業上の措置の内容と実施日を記録に残したか
- 衛生委員会へ(匿名化した形で)報告したか
- 面接指導結果・措置記録を適切な権限管理のもとで保管しているか
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