記事一覧に戻る
労務・人事

ストレスチェック後の「就業上の措置」と医師意見書ガイド|事業者が取るべき手順と記録の残し方

2026年6月7日 約5分で読めます
この記事のポイント
  • ストレスチェック後の「就業上の措置」は労働安全衛生法第66条の10第5項・第6項に基づく事業者の義務
  • 面接指導後、遅滞なく医師の意見を聴取し、書面で記録に残すことが重要
  • 就業上の措置決定時は、不利益取扱いとならないよう本人の意向を必ず確認する
  • 衛生委員会への匿名化した報告と、5年間の記録保管が推奨される

「就業上の措置」とは何か

ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者が面接指導(医師による面談)を申し出た場合、事業者にはその結果を受けて「就業上の措置」を講じる法的義務があります。

根拠法令は労働安全衛生法第66条の10第5項・第6項です。

  • 第5項:事業者は面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴かなければならない
  • 第6項:医師の意見を勘案し、必要と認めるときは実情を考慮した上で就業上の措置を講じなければならない

つまり、面接指導で終わりではなく、その後の「事業者としての対応」まで一連の義務として定められています。担当者は「高ストレス者が面談を受けたら完了」と思いがちですが、措置・記録・委員会報告まで含めた一連のフローを把握しておく必要があります。

ステップ1:面接指導後の医師からの意見聴取

面接指導を実施した医師は、事業者に対して就業上の措置に関する意見を述べます。事業者はこの意見を「面接指導実施後、遅滞なく」聴取する必要があります(厚生労働省告示・ストレスチェック指針より)。

医師の意見として求める内容

  1. 就業上の措置の必要性の有無(措置が必要か不要か)
  2. 講ずべき措置の内容(労働時間短縮・配置転換など具体的内容)
  3. 職場環境の改善に関する意見(業務量・人員体制など)

意見聴取の形式と記録の残し方

書面(意見書)の形で受け取ることが実務上の標準です。書面がない場合でも、口頭でのやり取りを記録として残しておく必要があります。多くの事業場では、産業医が作成した所定様式の意見書を受領するか、事業者側で「医師意見確認書」を準備して記入してもらう形をとっています。

意見書に含めるべき項目は以下の通りです。

  • 面接指導の実施日
  • 面接指導を実施した医師の氏名
  • 就業上の措置の要否
  • 具体的な措置の内容と期間の目安
  • 職場環境改善に関する意見(あれば)
実務では、面接指導を行った産業医から「意見書(所定様式)」を書面で受け取るか、あるいは事業者が作成した「医師意見確認書」に記入してもらう形が一般的です。いずれも口頭のみで終わらせず、記録を残すことが不可欠です。産業医がいない場合は、地域産業保健センターや産業保健総合支援センターの医師に相談しましょう。

ステップ2:就業上の措置の種類と選択基準

法律が例示する就業上の措置は以下の通りです。医師の意見・本人の意向・業務実態を総合的に考慮して選択します。一つの措置に限らず、複数を組み合わせて実施することも可能です。

措置の種類具体例適用の目安
労働時間の短縮残業禁止・所定労働時間内での終業過重労働が主因の場合
深夜業の回数削減夜勤シフトの免除・削減勤務形態が健康に影響している場合
就業場所の変更在宅勤務への切り替え・別拠点への異動特定の職場環境がストレス源の場合
作業の転換担当業務・担当顧客の変更業務内容がストレスの主因の場合
その他の必要な措置産業カウンセラーへの相談紹介など上記以外の支援が必要な場合

不利益取扱いの禁止(重要)

就業上の措置を決定する際は、必ず事前に本人の意見を聴き、面接指導の申し出を理由とした解雇・降格・減給などの不利益取扱いを行ってはなりません(法66条の10第9項・ストレスチェック指針第10)。

例えば、面接指導を受けたことを理由に「査定を下げた」「昇進候補から外した」といった対応は違反になります。措置を決める際の話し合いは丁寧に行い、記録に残しておくことが訴訟リスクの回避につながります。

ステップ3:衛生委員会への報告

事業者は医師から受けた意見を衛生委員会(または安全衛生委員会)へ報告しなければなりません(法66条の10第6項)。ただし、報告する際には個人が特定されないよう情報を集約・匿名化した形で提示するのが原則です。

衛生委員会への報告内容の例

  • 面接指導の実施件数(当該期間)
  • 就業上の措置の実施状況(措置の種類・件数)
  • 職場環境の改善が必要な事項(医師意見の概要)

衛生委員会の場で、職場環境改善の方向性を議題として取り上げることで、個人情報を保護しながら組織全体のメンタルヘルス対策に反映させることができます。

ステップ4:記録の作成と保管

面接指導の結果と就業上の措置に関する記録は、適切に保管する必要があります。

保管期間の考え方

  • 面接指導結果の記録:5年間保存が推奨(健康情報として管理)
  • ストレスチェック実施記録(実施年月日・対象者数等):5年間保存が推奨
  • 労基署への報告書控え:保管しておくことを推奨

※保管期間については、法令上の明示規定は限定的ですが、厚生労働省は5年間の保存を推奨しています。

記録保管上の注意点

  • 面接指導の結果は、労働者の同意なく人事部門に提供することは原則不可
  • 結果を保管する際は、アクセス権限を限定し情報管理を徹底する
  • 電子保管の場合はアクセスログの記録も合わせて残す
  • 退職後も記録を保持し、後日の証拠として活用できるようにする

50人未満の事業場で産業医がいない場合

50人未満の事業場で産業医の選任義務がない場合でも、面接指導を実施できる医師(地域産業保健センター・かかりつけ医など)を確保することが必要です。

産業保健総合支援センター(各都道府県)では、面接指導医師の紹介や就業上の措置に関する相談を無料で受け付けています。2028年4月の義務化方針を前に、今から体制を整えておくことが重要です。

事業者向けチェックリスト

  • 面接指導実施後、遅滞なく医師から意見を聴取したか
  • 医師意見を書面(意見書)で受け取り、記録として保管したか
  • 本人の意向を確認し、不利益取扱いとならないよう配慮したか
  • 就業上の措置の内容と実施日を記録に残したか
  • 衛生委員会へ(匿名化した形で)報告したか
  • 面接指導結果・措置記録を適切な権限管理のもとで保管しているか
よくある質問
就業上の措置はいつまでに実施しなければなりませんか?
法律上の具体的な期限は定められていませんが、厚生労働省は「面接指導実施後、遅滞なく」医師の意見を聴取することを求めています。意見聴取後は速やかに必要な措置を講じることが求められます。目安として面接指導から1〜2ヶ月以内を意識した対応が現実的です。
医師の意見と本人の希望が異なる場合、どちらを優先すべきですか?
法律上は「医師の意見を勘案し、労働者の実情を考慮して」措置を決定するとされています。医師の意見を最重視しながらも、本人と十分に話し合い、了解が得られるよう努めることが求められます。一方的に不利益な措置を押しつけることは避けてください。
就業上の措置を実施しなかった場合に罰則はありますか?
就業上の措置の不実施そのものへの直接的な罰則規定はありませんが、義務違反として労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。また、措置不実施が原因でメンタルヘルス不調が悪化した場合、安全配慮義務違反として民事訴訟リスクが高まります。
就業上の措置の内容を人事部門と共有してもよいですか?
就業上の措置の実施に必要な範囲で人事部門が関与することは認められています。ただし、面接指導の詳細な内容(健康上の具体的な情報)を広く共有することは、プライバシー保護の観点から避けるべきです。措置の内容・期間・担当者の範囲を最小化するのが基本方針です。
面接指導を受けた労働者が退職した場合、記録はどうすべきですか?
退職後も面接指導結果・就業上の措置の記録は引き続き保管することが推奨されます。退職後に労働者から損害賠償請求等が起きた場合の証拠としても機能するため、少なくとも5年間は保管しておくことが安全です。
衛生委員会に報告する際、個人が特定されないようにするにはどうすればよいですか?
部署名や人数など特定につながる情報は集約・マスクした形で報告するのが原則です。特定の部署で1件しか発生していない場合は、より広い括り(事業所全体など)でまとめるか、報告対象から除外して口頭説明にとどめるといった配慮が必要です。

この記事をシェア

ストレスチェック運用についてご相談ください

就業上の措置の記録管理や、ストレスチェックのシステム化について、FUNBREWがご相談に応じます。

最新情報をお届けします

IT活用のヒントやお役立ち情報を定期的にお届けします。

あわせて読みたい

「ストレスチェック・労務管理システム」に関連する記事です。

まとめ記事

ストレスチェックシステム開発|スクラッチ開発で実現する完全オーダーメイド

ストレスチェック外部委託の費用相場|1人あたり・規模別の計算式と隠れコストを解説

2026年6月6日

ストレスチェックにおける不利益取扱い禁止ガイド|会社がやってはいけない行為と労働者の権利

2026年6月5日

ストレスチェック後の職場復帰支援ガイド|高ストレス者の復職後フォローと職場環境調整の実務

2026年6月4日

産業医がいない事業場のストレスチェック実施ガイド|50人未満の担当者が知っておくべき5つの対処法

2026年6月3日

ストレスチェック実施事務従事者の年間業務フローと社内運営マニュアル

2026年6月2日

ストレスチェック結果を職場改善に活かす測定方法ガイド|KPI設定からPDCAの回し方まで

2026年6月1日

ストレスチェック結果通知書の書き方と記載例|実施者から労働者へ正しく通知するための実務ガイド

2026年5月31日

ストレスチェック未受検者への対応ガイド|欠席・拒否した従業員へのフォロー手順と記録管理

2026年5月30日

ストレスチェック実施規程の作り方と記載例|厚労省の規程例をもとに企業担当者向けに解説

2026年5月29日

厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」の解説|2028年義務化に備える実務ガイド

2026年5月28日

ストレスチェックにおける衛生委員会の役割と議事録の作り方|実施前の審議事項と運営手順

2026年5月25日

ストレスチェック結果の保管義務と管理方法|保存期間・電子管理の注意点を解説

2026年5月24日

ストレスチェック外部委託業者の選び方|厚労省チェックリストに基づく7つの確認ポイント

2026年5月23日

ストレスチェック義務化はいつから?50人未満の事業場は2028年4月1日施行の方針【準備タイムライン付き】

2026年5月22日

ストレスチェックの採点基準・標準値は今後変わるのか?2025年研究動向と企業が備えるべき実務ポイント

2026年5月22日

グループ会社・複数事業場のストレスチェック一元管理ガイド|本社主導で進める実施体制の作り方

2026年5月22日

ストレスチェック実施計画書の作り方|自社運用のための年間スケジュールとテンプレート

2026年5月19日

ストレスチェック後に高ストレス者が面談を申し出ないときの対応ガイド|勧奨・代替支援・記録管理の実務

2026年5月17日

自治体・行政機関のストレスチェック対策|地方公務員特有の実施課題と解決策

2026年5月16日

運輸・物流業のストレスチェック対策|長時間運転・不規則勤務に対応した実施方法

2026年5月15日

ストレスチェック×SmartHR連携の自社運用ガイド|中堅企業の設計パターンと実装

2026年5月14日

従業員200人規模のストレスチェック自社運用ガイド|中堅企業の体制づくりとシステム要件

2026年5月13日

ストレスチェック同意書の書き方ガイド|結果提供同意・拒否対応・テンプレート付き

2026年5月12日

ストレスチェックで行政指導を受けたときの対応方法|是正勧告・改善報告書の書き方と再発防止

2026年5月11日

ストレスチェックの実施者・実施事務従事者の違いと選び方|資格要件・兼任の可否・外部委託の判断基準

2026年5月10日

ストレスチェック委託先の選び方|SaaS型・産業医・代行業者を費用と運用で徹底比較

2026年4月25日

ストレスチェック助成金まとめ【2026年最新】中小企業が使える4制度と申請手順

2026年4月25日

ストレスチェック57項目の質問とは?職業性ストレス簡易調査票の選び方ガイド

2026年4月25日
まとめ記事

ストレスチェック50人未満の義務化ガイド|2028年4月1日施行の方針・準備すべき5ステップ【最新】

2026年3月28日

ストレスチェックと安全配慮義務|訴訟リスクを防ぐための企業対応

2026年3月22日

ストレスチェック未実施のリスクと罰則|労基署指導の実態と対応策

2026年3月22日

ストレスチェックのリアルタイムパルスサーベイ|年1回から継続的モニタリングへ

2026年3月22日

ストレスチェックシステムのAPI連携ガイド|人事・勤怠・健康管理との統合

2026年3月22日

AIを活用したストレスチェック分析|予測モデルと早期リスク検知の最前線

2026年3月22日

ストレスチェック年間スケジュールの立て方|実施から改善までのPDCAサイクル

2026年3月22日

ストレスチェックの多言語対応ガイド|外国人労働者への実施方法と注意点

2026年3月22日

管理職向けストレスマネジメント研修ガイド|ラインケアの実践方法

2026年3月22日

ストレスチェック結果を活用した職場環境改善計画の作り方

2026年3月22日

ストレスチェックの回答率を上げる方法|従業員の不安解消と効果的な周知戦略

2026年3月22日

金融・保険業界のストレスチェック対策|コンプライアンスと高負荷業務への対応

2026年3月22日

教育機関のストレスチェック対策|教職員の特有ストレスと改善アプローチ

2026年3月22日

介護・福祉業界のストレスチェック対策|人手不足環境での効果的な運用

2026年3月22日

小売・飲食業のストレスチェック対策|シフト制・パート従業員の実施方法

2026年3月22日

建設業のストレスチェック対策|現場作業員・多拠点管理の実務ガイド

2026年3月22日

ストレスチェック外注 vs 自社システム開発|費用・自由度・セキュリティで徹底比較

2026年3月22日

ストレスチェックにおける産業医との連携ガイド|役割分担と情報共有の実務

2026年3月21日

ストレスチェック労基署報告書の書き方|様式第6号の2 記入ガイド

2026年3月21日

ストレスチェック集団分析の読み方と数値の見方|健康リスク・部署別スコア・職場改善テンプレート

2026年3月21日

高ストレス者への面談対応マニュアル|判定基準から面談後フォローまで

2026年3月21日

ストレスチェックの個人情報保護ガイド|法的要件とデータ管理の実務

2026年3月21日

50人未満企業のストレスチェック努力義務化対応ガイド|低コスト導入と助成金活用

2026年3月21日

IT企業・リモートワーク環境のストレスチェック|在宅勤務者の回答率向上とオンライン面談の実践

2026年3月21日

医療機関のストレスチェック対策|職種別分析とバーンアウト予防の実践

2026年3月21日

製造業のストレスチェック対策|現場特有の課題と実践的な改善事例

2026年3月21日

【2026年版】ストレスチェック運用方式比較|外注・内製・ハイブリッドの完全ガイド

2026年3月21日

ストレスチェックの業務効率化|システム化で98%時間削減した実例と導入手順

2026年3月21日

失敗しないストレスチェック システムの選び方|7つの比較ポイントと導入手順【2026年版】

2026年3月21日

ストレスチェック システム開発の費用相場|規模別・機能別に徹底解説【2026年版】

2026年3月21日

EAP業界の競争激化で差別化が必要!独自システムの価値とは

2026年3月18日

他社サービス依存からの脱却〜EAP事業者のシステム内製化戦略

2026年3月18日
まとめ記事

EAP事業者がストレスチェック自社システムを持つべき3つの理由

2026年3月18日

ストレスチェックシステム移行完全ガイド|データ移行から運用開始まで

2026年3月17日

古いストレスチェックシステム5つの問題と解決法|老朽化システム刷新

2026年3月17日
まとめ記事

ストレスチェックシステム開発|スクラッチ開発で実現する完全オーダーメイド

2026年3月17日

ストレスチェック制度とは?企業の義務と罰則を完全解説

2026年3月14日

ストレスチェックシステムの追加機能開発|よくある要望と実現方法

2026年3月14日

パッケージ vs スクラッチ開発|ストレスチェックシステムの最適解

2026年3月14日

既存ストレスチェックシステムの刷新ガイド|老朽化の判断基準と移行方法

2026年3月14日

【2026年版】ストレスチェック実施ガイド|義務化から効果的活用まで

2026年3月14日

関連記事

ストレスチェック
2026年6月6日

ストレスチェック外部委託の費用相場|1人あたり・規模別の計算式と隠れコストを解説

ストレスチェック外部委託の費用相場を1人あたり・従業員規模別に徹底解説。Web受検250〜660円・紙受検450〜1,320円の根拠、集団分析・医師面接の追加費用、無料の厚労省版プログラムとの使い分けも紹介。

労務管理
2026年6月5日

ストレスチェックにおける不利益取扱い禁止ガイド|会社がやってはいけない行為と労働者の権利

ストレスチェック後の不利益取扱いは労働安全衛生法・指針で厳禁です。受検拒否・結果同意拒否・面接指導申出を理由とした解雇・配置転換・降格などの具体例と、企業担当者が整備すべき防止策を実務的に解説します。

労務管理
2026年6月4日

ストレスチェック後の職場復帰支援ガイド|高ストレス者の復職後フォローと職場環境調整の実務

ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員の職場復帰を支援するための実務手順を解説。面接指導後の就業上の措置・職場環境調整・復職後フォローの3ステップで企業担当者が取るべき対応をわかりやすくまとめました。

労務・HR
2026年6月3日

産業医がいない事業場のストレスチェック実施ガイド|50人未満の担当者が知っておくべき5つの対処法

産業医のいない50人未満の事業場でも、ストレスチェックは外部委託・地産保の活用・健診機関への依頼で適切に実施できます。2028年4月1日義務化に向けた実施者確保の手順と費用目安を解説します。

相談のハードル、下げました

まずは気軽にご相談ください

「まだ具体的に決まっていない」「とりあえず話を聞きたい」でも大丈夫。プロトタイプを見ながら、一緒にアイデアを形にしていきましょう。

相談無料 オンライン対応 1週間でプロトタイプ