- 50人未満企業の経営者が「いつ着手すべきか」を判断する4つの基準
- 先延ばしにするリスクと前倒し実施のメリット・デメリット
- 着手タイミングを決めるうえでの投資対効果の考え方
- 社内で合意形成を進める際の視点
- 実務手順・タイムライン・費用・罰則を詳しく解説した専門記事への案内
結論から言うと、50人未満の事業場が今考えるべきは「何をするか」ではなく「いつ着手するか」です。2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)により、ストレスチェックの実施義務が全事業場に拡大されることは法律として確定しています。施行日は2026年5月18日の労働政策審議会・安全衛生分科会で「2028年4月1日」の方針が示されましたが、政令による正式確定はこれからです。
本記事では、実施手順そのものではなく、経営者・意思決定者が着手タイミングを判断するための考え方を整理します。実務の具体的な手順は50人未満事業場のストレスチェック試行実施ガイド|今すぐ始める7ステップ、施行タイムラインの詳細な経緯はストレスチェック義務化はいつから?50人未満の事業場は2028年4月1日施行の方針、厚生労働省公式マニュアルの解説は厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」の解説で、それぞれ詳しく扱っています。
ストレスチェック義務化の背景と経緯
現行制度のおさらい
ストレスチェック制度は、2015年12月に施行された労働安全衛生法の改正により始まりました。現行制度では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して年1回のストレスチェック実施が義務づけられています。50人未満の事業場については「努力義務」にとどまっていました。
なぜ50人未満にも拡大されるのか
厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス不調による休職・離職は企業規模を問わず増加傾向にあります。特に中小企業では、産業医の選任義務がないことも相まって、従業員のメンタルヘルスケアが手薄になりがちです。
また、50人以上の事業場でストレスチェックを実施した結果、高ストレス者の早期発見と職場環境改善に一定の効果があったことが報告されています。こうした実績を踏まえ、全事業場への拡大が政府方針として示されました。
施行スケジュールの要点
改正法は2025年5月14日に公布済みで、施行日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされています。2026年5月18日の労働政策審議会で2028年4月1日施行の方針が示されましたが、正式決定は政令公布を待つ状態です。検討の経緯から準備タイムラインまでの詳しい図解はストレスチェック義務化はいつから?50人未満の事業場は2028年4月1日施行の方針【準備タイムライン付き】で解説しています。
事業場ごとの常時使用労働者数を入力すると、会社全体でストレスチェックの実施義務があるかを判定できます。下のツールで確認してみましょう。
不実施の罰則と行政指導
罰則の概要
義務化後にストレスチェックを実施しなかった場合、単に「やっていない」で済む問題ではありません。労働安全衛生法の違反として以下のプロセスで対応されます。
- 労働基準監督署による是正勧告・指導:まず行政指導として是正勧告が行われます。定期的な監督・調査や従業員からの申告がきっかけになることが多い。
- 報告義務違反の罰則:ストレスチェックの実施義務(労働安全衛生法第66条の10)自体には罰則規定がありません。ただし、常時50人以上の事業場が労働基準監督署への実施結果報告(労働安全衛生規則第52条の21)を怠った場合や虚偽報告をした場合は、同法第100条・第120条に基づき50万円以下の罰金が科される可能性があります。50人未満事業場に報告義務が課されるかどうかは、今後の政令で確定します。
- 民事リスク(安全配慮義務違反):ストレスチェックを実施していなかった状態でメンタルヘルス不調の社員が発生し、休職・退職に至った場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求される訴訟リスクが高まります。
罰則・行政指導のプロセスと未実施時の対応手順をより詳しく知りたい方はストレスチェック未実施のリスクと罰則|労基署指導の実態と対応策で解説しています。
「知らなかった」は通用しない
義務化の情報は厚生労働省が広く周知しており、「知らなかった」という主張は難しい状況です。特に従業員のメンタルヘルス問題が発生した際、ストレスチェックを実施していなかったことは「適切な安全配慮を怠っていた」証拠として不利に働く可能性があります。
義務化前であっても、今から取り組みを始めることが従業員への誠実な姿勢を示すことになります。
経営者が着手タイミングを判断する4つの軸
「義務化されるなら、いつから動くべきか」という問いに唯一の正解はありません。以下の4つの軸で自社の状況を点検し、着手タイミングを判断してください。
軸1:従業員数の増減見込み
今後1〜2年で採用を予定しており、常時使用労働者数が50人に近づく、または超える見込みがある場合は、義務化を待たずに先行実施しておく方が安全です。50人を超えた時点で現行制度(努力義務ではなく義務)の対象になるため、体制がないまま義務化を迎えるリスクを避けられます。
軸2:既存のメンタルヘルス施策の有無
EAP(従業員支援プログラム)や産業医面談など、既に何らかのメンタルヘルス施策を運用している企業は、ストレスチェックを追加するハードルが低く、先行実施のメリットが大きくなります。逆に何も施策がない企業は、実施者の確保から始める必要があり、準備期間を長めに見積もるべきです。
軸3:予算サイクルとの整合
年間5〜30万円程度の外部委託費用は、多くの企業にとって単年度予算で吸収できる規模です(費用の詳細は後述)。次期予算編成のタイミングに合わせて「来年度から実施」を決めてしまう方が、義務化直前に慌てて発注するより費用・選択肢の両面で有利です。
軸4:離職・採用ブランディングへの活用余地
人手不足が続く業種では、「メンタルヘルスケアに力を入れている会社」であることが採用・定着のアピール材料になります。義務化を待つのではなく、先行実施を採用サイトや求人票でアピールする企業も増えています。
4つの軸を踏まえたうえで具体的な実施手順を確認したい場合は、50人未満事業場のストレスチェック試行実施ガイド|2028年義務化前に今すぐ始める7ステップで、実施者の選任から社内規程の整備まで手順ごとに解説しています。
産業医・実施者の選び方
50人未満企業が抱える「実施者問題」
ストレスチェックを実施するには、医師・保健師などの「実施者」が必要です。50人以上の事業場では産業医を選任する義務がありますが、50人未満では選任義務がありません。そのため、どこから実施者を手配するかが最初の課題になります。
実施者の調達ルート
| 調達方法 | 費用感 | 特徴 |
|---|---|---|
| 産業保健総合支援センター(産保センター) | 無料〜 | 都道府県ごとに設置。産業医・保健師の紹介や相談を無料で受けられる |
| 外部委託サービス(パッケージ) | 実施費に含む | EAP業者やSaaS型サービスが実施者込みのプランを提供 |
| 地域の産業医・保健師と個別契約 | 月額2〜5万円程度 | 継続的な健康管理も含めた契約が可能 |
| 医療機関・産業医紹介会社 | 紹介料+顧問料 | 自社の業種・規模に合った産業医を紹介してもらえる |
まず無料で相談できる「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」への問い合わせを推奨します。各都道府県に設置されており、実施者の紹介だけでなく、制度の説明や規程整備の相談にも応じてもらえます。
実施者に確認すべきポイント
- 労働安全衛生法に基づく資格要件を満たしているか(医師・保健師等)
- ストレスチェックの実施経験・実績があるか
- 高ストレス者の面接指導まで対応できるか
- 結果データの管理・セキュリティ体制はどうなっているか
委託先選定の落とし穴
「安い」だけで選ぶと後悔するケース
ストレスチェックの外部委託サービスは価格差が大きく、1人あたり数百円のものから数千円のものまで様々です。費用を抑えたい気持ちは理解できますが、以下の落とし穴に注意が必要です。
落とし穴1:実施者が「名義貸し」状態
法令上、実施者(医師・保健師等)がストレスチェックの実施に責任を持つ必要があります。しかし廉価サービスの中には、実施者が形式的に名前を貸しているだけで、実質的な関与が薄いケースがあります。高ストレス者が面接指導を希望した際に「対応できない」と言われるトラブルの温床になります。
落とし穴2:個人情報の管理が不明確
ストレスチェックの結果データには、従業員の心身の健康に関するセンシティブな情報が含まれます。Pマーク(プライバシーマーク)やISMS認証の有無、データの保管場所(国内・海外)、サービス終了時のデータ返却・削除方針を必ず確認してください。
落とし穴3:集団分析が「オプション扱い」
安価なプランでは、集団分析レポートが別料金になっているケースがあります。集団分析は努力義務ですが、職場環境改善のための重要なデータです。プラン選定時に集団分析の有無を確認しておきましょう。
落とし穴4:少人数プランがない
多くのSaaSサービスは最低利用人数(10人・20人など)を設けています。10人未満の企業では利用できないサービスも多く、無駄な費用を払うことになりかねません。小規模事業場向けの料金プランがあるかを事前確認してください。
費用の目安と活用できる助成金(概要)
50人未満の企業がストレスチェックを外部委託する場合、年間5〜30万円程度、高ストレス者の医師面接指導は1回1〜3万円程度が目安です。小規模事業場産業医活動助成金など活用できる制度もありますが、かつて利用できた「ストレスチェック実施促進のための助成金」は令和4年度(2022年度)に廃止されており、現在は利用できません。費用の内訳・助成金の申請手順まで詳しく知りたい方は50人未満企業のストレスチェック努力義務化対応ガイド|低コスト導入と助成金活用およびストレスチェック助成金まとめ【2026年最新】で解説しています。
高ストレス者対応フロー
高ストレス者の判定基準
ストレスチェックで「高ストレス者」と判定される基準は、実施者(医師・保健師等)が定めます。一般的には以下の2つの条件のいずれかに該当する場合に高ストレス者と判定されます。
- 心身のストレス反応(B領域)のスコアが高い:疲労感・不安感・身体愁訴などのスコアが高いケース
- 仕事のストレス要因(A領域)とサポート(C領域)の合計スコアが高く、かつB領域も一定以上:仕事の負荷が高く、周囲のサポートが少ない状況
高ストレス者の割合は一般的に全体の10〜15%程度とされています。
面接指導の申し出から実施までの流れ
- 実施者から高ストレス者本人へ結果を通知(面接指導の申し出先も案内)
- 高ストレス者が事業者に面接指導を申し出る(1ヶ月以内が目安)
- 事業者が医師(実施者または産業医)による面接指導を手配
- 医師が面接指導を実施し、就業上の措置に関する意見書を事業者に提出
- 事業者が意見書の内容を踏まえ、就業上の措置(配置転換・時短・業務内容変更等)を検討・実施
- 措置の内容を記録として保存(5年間)
高ストレス者対応で注意すべきこと
- 申し出を理由とした不利益取扱いの禁止:面接指導を申し出たことを理由に、解雇・降格・減給・配置転換などの不利益な取り扱いをすることは法律で禁止されています。
- 面接指導の費用は事業者負担:面接指導にかかる費用(医師への報酬)は事業者が負担するのが原則です。
- 産業医がいない場合の手配:50人未満の企業は産業医がいないため、外部の医師(地域産業保健センター等)と連携して面接指導を実施します。
集団分析の活用
集団分析で何がわかるのか
集団分析は、部署・職種・年齢層などの集団単位でストレス状況を把握するための分析です。個人情報を特定しない形で実施するため、事業者も結果を受け取ることができます。
集団分析で把握できる主な情報:
- 部署別のストレス傾向(仕事の量・コントロール感・上司サポートなど)
- 職場のリスク要因(業務過多・孤立・ハラスメントの兆候など)
- 前年比較による改善・悪化トレンド
50人未満企業での集団分析の工夫
従業員数が少ない企業では、「部署単位で10人以上」という条件を満たせないことがあります。この場合の工夫:
- 職種別分析:営業・事務・製造など職種でグルーピングする
- 年代別分析:20代・30代・40代以上でグルーピングする
- 全社単位での分析:部署分けはせず全社の傾向を把握する
- 経年比較:今年と昨年の全社スコアを比較して変化を把握する
集団分析の読み方・活用法についてはストレスチェック集団分析の読み方と数値の見方で詳しく解説しています。
よくある3つの誤解
誤解1:「パートやアルバイトは対象外」
ストレスチェックの対象は「常時使用する労働者」です。週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上で、かつ1年以上の雇用が見込まれるパート・アルバイトも対象に含まれます。
誤解2:「結果を見て問題社員を特定できる」
ストレスチェックの結果は、本人の同意がない限り事業者は閲覧できません。結果を人事評価や配置転換の材料に使うことも法律で禁止されています。制度の趣旨は「従業員自身が気づきを得ること」と「職場環境の改善」にあります。
誤解3:「実施さえすれば義務は果たした」
ストレスチェックは実施して終わりではありません。高ストレス者から面接指導の申出があった場合の対応義務、結果の5年間保存義務など、事後の対応も含めて法的義務が課されます。「やりっぱなし」にならないよう、PDCAサイクルで継続的に運用することが重要です。
ツール・外部委託先を選ぶときの視点
SaaS型ツールを選ぶ場合は厚労省推奨の57項目調査票への対応・個人結果の直接通知機能・少人数プランの有無を、外部委託先を選ぶ場合は実施者の在籍・面接指導までの一括対応・個人情報管理体制を確認してください。厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」に基づく外部委託の判断基準は厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」の解説で、委託先タイプ別の費用・運用比較はストレスチェック委託先の選び方|SaaS型・産業医・代行業者を費用と運用で徹底比較で詳しく解説しています。
従業員規模が拡大して既製のSaaSでは対応しきれなくなった場合や、自社の人事システム・勤怠管理システムとストレスチェックを連携させたい場合は、自社専用システムの開発も選択肢に入ります。FUNBREWでは、ストレスチェックシステムの開発実績をもとに、企業の規模や運用に合わせたシステム構築をご提案しています。
まとめ:経営者がまず決めるべきこと
2025年5月に改正法が公布され、2028年4月1日施行の方針が示された今、50人未満企業の経営者が最初に決めるべきは実施手順の細部ではなく「いつ着手するか」です。従業員数の増減見込み・既存施策の有無・予算サイクル・採用ブランディングへの活用余地という4つの軸で自社の状況を点検し、着手時期を決めてください。
具体的な実施手順は試行実施7ステップガイド、施行タイムラインの詳細は義務化はいつからガイドをあわせてご覧ください。
ストレスチェックシステムの導入や開発について相談したい方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
ストレスチェック関連の詳しい情報
50人未満の義務化対応をさらに深めたい方は、以下の関連記事も参考にしてください。
- ストレスチェック義務化はいつから?50人未満の事業場は2028年4月1日施行の方針【準備タイムライン付き】:施行までの詳しい経緯とタイムライン
- 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」の解説:公式マニュアルの内容を実務担当者向けに解説
- 50人未満事業場のストレスチェック試行実施ガイド|2028年義務化前に今すぐ始める7ステップ:試行実施の具体的な手順
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