契約更新のタイミングで、保守ベンダーから保守費の値上げを提示された。金額の根拠がよく分からないまま、受け入れるか断るかを迫られている——このような状況に置かれた発注担当者の方に向けた記事です。
保守費の値上げは、ベンダーの都合だけで起きるとは限りません。多くは「保守作業の中身が契約時と変わってしまった」ことの結果です。金額を値切る前に作業実態を確認してください。値上げを断ると、多くの場合は保守の範囲そのものが縮小します。
システム保守費の値上げとは
システム保守費の値上げとは、既存の保守契約を更新する際に、ベンダーが従来より高い月額または年額を提示することです。開発費用のような一時的な支出と違い、保守費は毎月固定で発生するため、値上げ幅がそのまま年間コストの増加として効きます。
値上げの提示を受けた発注者が最初に取りがちな行動は、金額そのものの交渉です。しかし、金額だけを見て値切りに入ると、なぜ値上げが必要になったのかという原因が手つかずのまま残ります。原因が残ったまま金額だけを据え置けば、次に削られるのは金額ではなく作業の中身です。
なぜベンダーは保守費の値上げを言い出すのか
保守費の値上げには、ベンダー側の人件費高騰といった外部要因もありますが、実務で多いのは「契約時に想定していた作業と、実際に発生している作業がずれてきた」というケースです。
- 契約時に想定していなかった作業が、恒常的に発生するようになった
- システムの不具合に近い挙動を、運用の手作業で回避し続けている
- 利用者数やデータ量が増え、同じ作業でも時間がかかるようになった
- 古い技術基盤を維持するために、対応できる要員が限られてきた
いずれも共通しているのは、ベンダーが手を抜くために値上げを求めているのではなく、実際に投入している工数が契約金額に合わなくなっているという点です。だからこそ、金額だけを交渉しても解決しません。
実例:月3万円から5万円への値上げを提示した側の話
FUNBREWが実際に保守を請け負っていた案件の話です。運用開始から15年ほど経過した、古いポータルサイトの運用保守を担当していました。契約更新のタイミングで、月3万円だった保守費を5万円へ、およそ1.5倍の値上げを提示しました。
値上げの理由として提示したのは、元のシステムの出来が良くないことでした。不具合に近い挙動を、運用の手作業で回避する作業が、いつの間にか保守作業として恒常的に依頼されるようになっていたのです。本来であればシステム側で直すべきことを、人手で毎月埋め合わせている状態でした。
作業工数の実態として、金額を下げる余地はありませんでした。そこで金額の交渉ではなく、根本原因を断つためにシステムの改修を提案しました。運用の手作業を生んでいる箇所を直せば、保守作業そのものが減り、保守費を上げ続ける必要がなくなるという考え方です。
値上げを断るとどうなるか
先ほどの案件がどう着地したかというと、値上げは受け入れられませんでした。発注側の回答は「それ以上の費用は出せない」というもので、値上げは断られ、あわせて提案していたシステム改修も実施されませんでした。
結果として起きたのは、保守の縮小です。従来と同じ金額のままでは、これまでどおりの手厚い運用回避を続けることができず、保守は最低限のものにせざるを得なくなりました。値上げを断ったことで支出は据え置かれましたが、受け取れる保守の中身は契約時より薄くなったということです。
ここで理解しておきたいのは、値上げの拒否が「値上げ前の状態の維持」を意味しないという点です。工数が合わなくなっているという事実は、金額を据え置いても消えません。金額を固定すれば、調整されるのは作業量の側になります。
値上げを提示されたときに確認すべきこと
値上げの妥当性は、金額の大小ではなく作業実態との整合で判断します。提示を受けたら、次の点をベンダーに確認してください。
- 作業内訳の変化:契約時と比べて、どの作業が増えたのか。増えた作業は毎月発生しているのか、突発的なものか
- 増えた作業の原因:システム側の問題を人手で回避しているのか、それとも利用状況の変化によるものか
- 原因を取り除く手段の有無:改修すれば減る作業なのか、改修しても減らない作業なのか
- 値上げを見送った場合の保守範囲:現行金額を維持した場合、何が対応範囲から外れるのか
最後の項目は特に重要です。値上げを断るという判断をする前に、断った結果として何が保守されなくなるのかを、書面で確認しておくべきです。
「改修」という選択肢を検討する
増えた作業がシステム側の問題に起因している場合、値上げを受け入れるか断るかという二択の外に、改修という選択肢があります。改修には一時的な費用が必要ですが、原因そのものを取り除けるため、保守費が上がり続ける構造を止められます。
一方で、改修にも費用がかかる以上、保守費の値上げを断った発注者が改修費を出せるとは限りません。実際、先ほどの案件では改修も実施されませんでした。判断する際は、毎月の保守費と一時的な改修費を切り離して考えず、数年単位の総額で比較することをおすすめします。保守費用の考え方についてはシステム保守費用の計算方法やシステム保守のコスト削減方法5選もあわせてご覧ください。
それでも金額を交渉したい場合
作業実態を確認したうえで、なお金額の交渉余地を探りたい場合は、内訳の開示を求めるところから始めます。発注者側から使える具体的な交渉手法はシステム保守費用を下げる交渉術で解説しています。
ただし、この記事で述べたとおり、交渉で下げられるのは「実態と合っていない金額」までです。実態と合っている金額を無理に下げれば、削られるのは作業の中身になります。交渉の目的は金額の圧縮ではなく、支払っている金額と受け取っている保守内容を一致させることだと考えてください。
まとめ
保守費の値上げを提示されたら、金額の妥当性ではなく作業実態の変化から確認してください。値上げの多くは、契約時に想定していなかった作業が恒常化したことの結果です。
値上げを断るという判断は可能ですが、それは値上げ前の保守内容が維持されることを意味しません。工数が合わないという事実は金額を据え置いても残り、調整されるのは作業量の側になります。FUNBREWが実際に値上げを提示して断られた案件でも、システム改修は実施されず、保守は最低限のものに縮小しました。
現在の保守内容と費用が見合っているか判断がつかない場合は、お問い合わせよりご相談ください。
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