この記事の結論: 2026年1月1日、下請法は「取適法(中小受託取引適正化法)」に改正されました。システム開発・保守の委託契約(情報成果物作成委託)も対象に含まれ、代金の価格交渉を拒否することが新たに禁止行為に追加されています。発注担当者は自社が対象になるか、契約書が新ルールに沿っているかを今すぐ確認する必要があります。
- 取適法(下請法改正)とは何か、旧・下請法から何が変わったか
- システム保守・開発の委託契約がなぜ規制対象になるのか
- 委託事業者に課される「4つの義務」と「11の禁止行為」
- 新設された「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」が保守費用交渉に与える影響
- 自社が対象になるかの資本金・従業員基準の確認方法
- 契約書・発注書で今すぐ確認すべきチェックポイント
取適法とは?旧・下請法との違い
取適法とは、2026年1月1日に施行された下請法の改正法です。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称「中小受託取引適正化法」といいます(公正取引委員会, 2026年1月1日施行)。旧称の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」を改称・強化したもので、令和7年5月16日に成立、5月23日に公布されました。
用語も変更されています。発注する側の「親事業者」は「委託事業者」に、受注する側の「下請事業者」は「受託事業者」に呼び方が変わりました。呼称は変わりましたが、規制の骨格自体は下請法を引き継いでいます。
システム保守・開発の委託契約はなぜ対象になるのか?
プログラム作成・システム開発・システム保守などの委託は、取適法が定める「情報成果物作成委託」に該当します(公正取引委員会リーフレット, 2026年)。そのため、以下のようなケースが規制対象になり得ます。
- 自社(発注者側)が外部の開発会社にシステム開発・保守を委託している
- 開発会社がさらに別のエンジニア・会社に再委託している
- 保守費用の見直しや値上げについて、開発会社と価格交渉をしている
「うちは製造業ではないから関係ない」と考えがちですが、Web制作・システム保守・アプリ開発を外部委託している中小企業の多くが、取適法上は「委託事業者」の立場に該当します。
委託事業者に課される「4つの義務」とは?
取適法により、委託事業者(発注側)には主に次の4つの義務が課されます(公正取引委員会, 2026年)。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 書面交付義務 | 発注内容・代金・支払期日などを記載した書面(電磁的記録可)を受託事業者に交付する |
| 支払期日を定める義務 | 給付を受領した日から起算して、原則60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定める |
| 書類の作成・保存義務 | 取引内容を記載した書類・電磁的記録を作成し、一定期間保存する |
| 遅延利息の支払義務 | 支払期日までに代金を支払わなかった場合、遅延利息を支払う |
禁止される行為は?新設された「価格交渉拒否の禁止」を重点解説
取適法では11の行為が禁止されています。買いたたき・受領拒否・支払遅延・返品・不当な経済上の利益の提供要請などは下請法から引き継がれた項目ですが、今回新設されたのが「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」です。
新設:協議に応じない一方的な代金決定の禁止
これは、労務費や原材料費などのコスト上昇を理由に受託事業者(開発会社側)から価格交渉を求められた場合、委託事業者(発注側)が協議に応じなかったり、必要な説明・情報提供をせずに一方的に代金を決定したりすることを禁止するものです(公正取引委員会, 2026年)。価格転嫁の実現を後押しする狙いがあります。
引き継がれた禁止行為(買いたたき・支払遅延など)
下請法から引き継がれた禁止行為には、通常より著しく低い代金を不当に定める「買いたたき」、正当な理由のない「受領拒否」、代金の「支払遅延」、納品後の「返品」、不当な経済上の利益の提供要請などがあります。システム保守委託でも、値下げ交渉を装った買いたたきや、検収の意図的な引き延ばしによる支払遅延は違反にあたるおそれがあるため注意が必要です。
システム保守費用の値上げ交渉はどう変わる?
この新ルールは、システム保守費用の交渉場面にも直結します。開発会社側から保守費用の値上げを打診された場合、発注側が理由も聞かずに拒否したり、根拠を示さず一方的に金額だけを決めたりすると、取適法違反となるおそれがあります。
逆に言えば、発注側にとっては「相場に対して妥当な保守費用かどうか」を根拠を持って確認・交渉する重要性がこれまで以上に高まったということです。保守費用の交渉術についてはシステム保守費用を下げる交渉術で具体的な手順を解説しています。
自社は取適法の対象になる?資本金・従業員基準をチェック
取適法は、資本金基準に加えて「常時使用する従業員数」の基準が新たに追加され、いずれかに該当すれば適用対象となります(公正取引委員会リーフレット, 2026年)。
| 委託内容 | 委託事業者側の基準 | 対象となる受託事業者側 |
|---|---|---|
| プログラム作成等の情報成果物作成委託・関連する役務提供委託 | 従業員300人超 | 従業員300人以下の事業者 |
| 上記以外の役務提供委託 | 従業員100人超 | 従業員100人以下の事業者 |
従業員数基準が新設されたことで、資本金基準では対象外だった企業が新たに委託事業者として規制対象に含まれるケースが生じます。自社の委託契約が対象かどうか、資本金だけでなく従業員数も含めて確認しておく必要があります。
システム保守・開発の契約書で今すぐ確認すべき5つのポイント
- 発注書・契約書に法定記載事項が明記されているか(発注内容・代金・支払期日など)
- 支払期日が給付受領日から60日以内に設定されているか
- 保守費用の値上げ交渉に応じるプロセスが契約に盛り込まれているか
- 減額・返品・買いたたきに該当しかねない条項が残っていないか
- 開発会社の変更・引き継ぎ時に取引記録が適切に保存されているか(システム保守引き継ぎの手順と注意点も参照)
契約形態(月額固定・従量制など)によって確認すべき項目は変わります。詳しくはシステム保守の契約形態を比較もあわせてご確認ください。
違反した場合のリスクは?
書面交付義務や書類の作成・保存義務など手続き面の違反は、50万円以下の罰金の対象となり得ます(取適法14条〜16条)。買いたたきなど取引内容そのものに関わる禁止行為への違反は、公正取引委員会による勧告の対象となり、勧告が行われると原則としてウェブサイトで社名が公表されます。金額の大小にかかわらず、社名公表による信用低下のリスクは中小企業にとって無視できません。
まとめ
取適法は2026年1月1日に施行され、システム保守・開発の委託契約も規制対象に含まれます。特に「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」は、保守費用の値上げ交渉に直接関わる新ルールです。自社が委託事業者に該当するかを資本金・従業員数の両基準で確認し、契約書・発注書の記載事項や支払期日が新ルールに沿っているかを早めに点検しておくことをおすすめします。
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