他社が作ったシステムを引き継ぐとき、最初にぶつかるのは「仕様がわからない」ことだと思われがちです。しかし実際に手を止めるのは、それより手前の条件でした。試せる場所が無いことです。
テスト環境が無いシステムを引き継いだ場合、最初にやることは修正ではなく「どこを触ると壊れるか」の特定になる。FUNBREWが2025年に対応した医療系システムの引き継ぎでは、安全に作業できる状態をつくるまでに半年かかった。引き継ぎの見積もりでは、この期間が抜け落ちやすい。
テスト環境が無い、とはどういう状態か
テスト環境とは、本番と同じ構成を別に用意して、本番に影響を与えずに動作を確認するための環境である。開発環境・検証環境・ステージング環境などと呼ばれ、通常はここで動作を確認してから本番へ反映する。
テスト環境が無い現場では、この確認工程が存在しない。修正はいきなり本番に入る。動くかどうかは、本番で動かしてみるまでわからない。
この状態は珍しくありません。特に、長く同じ会社が保守してきたシステムで起きます。担当者が仕様を覚えているうちは、確認しなくても直せてしまうためです。環境を用意する手間より、頭の中の記憶で進めたほうが速い状態が続き、そのまま年数が経ちます。
実際にあった引き継ぎ:医療系システム(2025年)
FUNBREWが2025年に引き継いだ医療系システムは、次の状態でした。
- ドキュメントが揃っていない(あっても現状と合っていない)
- 前のベンダーの担当者が、すでに退職している
- テスト環境が無く、修正は本番環境で直接おこなわれていた
3つが同時に成立していることが、この案件の難しさでした。ドキュメントが無くても、担当者に聞ければ埋まります。担当者がいなくても、試せる環境があれば動かして確かめられます。しかしこの現場では、聞く相手も、試す場所も、どちらも無い状態でした。
結果として、引き継いでから安全に作業できる状態をつくるまでに、環境整備の構築だけで半年かかりました。
最初にやったことは修正ではなく「どこを触ると壊れそうか」の調査
この状況で最初に着手したのは、機能の調査です。目的は仕様の全体像を描くことではなく、確実に触れる範囲を確定させることでした。
本番環境しか無い以上、修正の失敗は利用者に直接届きます。医療系であればなおさら、動かなくなる時間そのものが問題になります。そのため「何ができるか」より先に、「何をすると何が起きるか」を把握する必要がありました。
調査の観点は次のようなものです。
- どの機能が、他のどの機能とデータを共有しているか
- 触っても影響が閉じる範囲はどこか
- 逆に、変更すると連鎖して壊れる可能性がある箇所はどこか
- 停止できる時間帯があるか、あるならどこか
この作業を経て初めて、「ここは直せる」「ここはまだ触らない」の線引きができます。線引きができるまでは、依頼された修正であっても着手しないほうが安全です。
なぜ環境整備に半年かかるのか
「テスト環境を作る」と一言でいうと、サーバーを1台用意する作業に聞こえます。実際には、本番と同じように動く状態を再現する作業です。
本番でしか成立していない条件を、動かしながら見つける
本番だけで動いてきたシステムは、本番でしか成立しない条件を抱えていることがあります。手作業で入れた設定、特定のサーバーにしか無いファイル、いつ誰が入れたかわからない外部連携などです。ドキュメントが無く、前任者もいない場合、これらは動かしながら1つずつ見つけるしかありません。
検証に使うデータの準備にも手順が要る
加えて、医療系のように扱うデータに配慮が必要なシステムでは、検証用データの準備自体に手順が要ります。本番データをそのままコピーして使うわけにはいきません。
期間が読みにくいのはこのためです。作業量が多いというより、やってみるまで何が足りないかがわからない種類の作業が積み重なります。
引き継ぎを依頼する側が、依頼前に確認しておけること
発注者の立場で事前に確認できることは限られていますが、次の3点は聞けば答えが返ってきます。引き継ぎの期間と費用が大きく変わる項目です。
- テスト環境(検証環境)があるか — 「開発環境はありますか」と聞くのが確実です。無い場合、引き継ぎ後すぐには修正できないと考えておくのが安全です。
- 現在の担当者が在籍しているか — 退職済みの場合、口頭で補われていた情報は失われています。担当者退職時のシステム保守引き継ぎもあわせてご確認ください。
- ドキュメントが現状と一致しているか — 「ある/ない」ではなく「最後に更新したのはいつか」を聞きます。仕様書なしのシステム保守引き継ぎで、書類が無い場合の進め方を解説しています。
3つとも「無い」場合、引き継ぎは可能ですが、最初の数か月は機能追加ではなく足場づくりに使われます。ここを見積もりに入れておかないと、「引き継いだのに何も進んでいない」という認識のずれが起きます。全体の流れはシステム保守引き継ぎの手順と注意点にまとめています。
まとめ
テスト環境が無いシステムの引き継ぎでは、着手して最初にやることが「修正」ではなく「触れる範囲の特定」になります。FUNBREWが2025年に対応した医療系の案件では、安全に作業できる状態をつくるまでに半年を要しました。
引き継ぎを検討する段階では、テスト環境の有無・担当者の在籍・ドキュメントの更新時期の3点を確認しておくと、必要な期間の見通しが立てやすくなります。現状がわからない状態でのご相談でも問題ありません。お問い合わせからご連絡ください。
この記事をシェア
引き継げるかどうかの判断から相談できます
テスト環境が無い、ドキュメントが無い、前の担当者と連絡が取れない。そうした状態からのご相談も承っています。現状がわからないままで問題ありません。