システム開発を発注するとき、条件を変えた見積もりを複数もらって比較したいと考えるのは自然なことです。予算には限りがあり、少しでも安く、少しでも確実に進めたいと考えるのは発注者として当然の判断です。
その一方で、見積もりの依頼を重ねるほど精度が上がるかというと、実はそうとも限りません。この記事では、開発会社が見積もりを作るときに何をしているのかという裏側と、限界まで詰めた見積もりがかえって発注者の不利になる場面について説明します。
見積もりの精度は、要件がどこまで決まっているかで決まります。条件を変えた見積もりを何本も依頼することは、開発会社に無償で要件定義を進めさせることに近く、結果として一本あたりの精度は上がりません。また、限界まで無駄を削った見積もりは、変更に耐える余地がなくなるため、後の仕様変更がすべて追加費用の交渉になります。
見積もりの精度は何で決まるのか
システム開発の見積もりとは、決まっている要件を金額と期間に翻訳した結果です。したがって、見積もりの精度を決めているのは開発会社の腕前ではなく、その時点で要件がどこまで決まっているかです。
要件がぼんやりしている段階で精度の高い金額を出すことはできません。逆にいえば、精度の高い金額を出すためには、誰かがどこかで要件を決める作業をしなければならないということです。
「この場合は?」に答えるには要件を決める必要がある
「この機能を外したらいくらか」「利用者が倍になったらいくらか」「先にこの部分だけ作るといくらか」——こうした問いに答えるには、その条件でシステムがどう成立するかを一度組み立て直す必要があります。
- 外した機能に依存していた処理をどう扱うかを決める
- 利用者が増えた場合の構成やデータ量の前提を置き直す
- 分割して作る場合、どこで切ると動く単位になるかを検討する
- それぞれの条件で、必要な作業を洗い出して工数に換算する
これは金額を書き換える作業ではなく、要件を検討する作業そのものです。つまり、条件別の見積もりを一本作るたびに、要件定義の一部が進んでいることになります。
見積もりの本数が増えると何が起きるか
ここに構造的なねじれがあります。要件定義は本来、費用と期間を要する設計工程です。ところが見積もりは、受注が決まる前の営業段階で無償で提出されるものです。
FUNBREWでも、条件を変えた見積もりを何本も求められることは実際にあります。ご依頼の意図はよく分かりますし、費用を抑えたいというお気持ちも理解しています。ただ、その作業の中身は要件定義であり、その分の費用は見積書のどこにも入っていません。
この状態が続くと、発注者にとって望ましくないことが起きます。
- 一本あたりの検討が浅くなる:本数が増えるほど、一本にかけられる時間は減ります
- リスク分が金額に乗る:短時間で出す金額ほど、外したときに備えた余裕を含める必要があります
- 比較しにくくなる:前提の異なる見積もりが並ぶと、どれが安いのかの判断自体が難しくなります
安くするために本数を増やしたのに、結果として金額の確からしさが下がるという逆転が起きるわけです。
詰めすぎた見積もりは、変更に弱い
もう一つ、金額を限界まで削った見積もりには副作用があります。余裕がない見積もりは、変更を吸収できないという点です。
システム開発では、作り始めてから分かることが必ず出てきます。画面を見て初めて気づく使いにくさ、実際のデータを入れて分かる不足、業務側の事情の変化。こうした調整は、金額に多少の余裕がある契約であれば、その範囲で吸収できます。
しかし無駄を削り切った見積もりでは、吸収する余地がありません。結果として、小さな変更のたびに追加費用の相談が発生します。
変更が効かないと、どこで困るか
- 使い勝手の改善を言い出しにくくなり、使いにくいまま納品される
- 一つひとつの変更に見積もりと承認が必要になり、進行が遅くなる
- 「これは追加費用です」という会話が増え、関係がぎくしゃくする
- 結局、追加分を積み上げた総額が当初見積もりを上回る
費用を抑えるつもりで詰めた見積もりが、進行の柔軟性を失わせ、総額でも得にならないという結果になりがちです。契約形態によって変更の扱いは変わるため、請負と準委任の違いもあわせて確認しておくことをおすすめします。
費用を抑えたいときに、もっと効く進め方
費用を抑えたいという目的そのものは正当です。そのうえで、見積もりの本数を増やす以外に効く方法があります。
- 段階を分ける:まず幅のある概算で複数社を比較し、依頼先を絞ってから詳細を詰める。全社に詳細見積もりを求めない
- 比較軸を絞る:条件を10通り並べるより、本命と対案の2〜3通りに絞ったほうが、各案の検討が深くなる
- 要件定義を有償で切り出す:要件定義だけを独立した契約にすれば、開発会社は時間をかけて検討でき、成果物は発注者の資産として残る。他社に持ち込んで比較することもできる
- 予算を先に伝える:金額を伏せるより、上限を伝えたほうが、その範囲で何ができるかという提案を受け取れる
特に有効なのは、要件を先に整理してから依頼する方法です。要件定義のやり方やRFP(提案依頼書)の書き方を参考に、条件を揃えた依頼書を用意すると、各社の見積もりが同じ土俵に並び、比較がはるかに簡単になります。
まとめ
見積もりの精度は、要件がどこまで決まっているかで決まります。条件を変えた見積もりを何本も依頼することは、開発会社に無償で要件定義を進めさせることに近く、本数が増えるほど一本あたりの検討は浅くなります。
また、限界まで詰めた見積もりは変更を吸収できないため、後の調整がすべて追加費用の交渉になります。費用を抑えたい場合は、見積もりの本数を増やすより、概算で絞ってから詳細を詰める、比較軸を絞る、要件定義を有償で切り出すといった進め方のほうが確実です。
何をどこまで決めればよいか分からない段階でも構いません。まずはお問い合わせよりご相談ください。決まっていないことを一緒に整理するところからお手伝いします。
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